クイズ 誰がやったのでSHOW

鬼霧宗作

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第3問 過去は明日と同じ夢を見るか【出題編】

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 ゆっくりとドアノブをひねり、そしてゆっくりと扉を開ける【A】。廊下のうっすらとした明かりが真っ暗な部屋へと差し込み、徐々に部屋の全貌を明らかにする。【A】達が中庭越しに目撃した時は電気が点いていたはずなのに、なぜだか部屋の電気は消えていた。

 扉を全開にしたところで、明かりは部屋の奥まで届かなかった。誰かが固唾を飲む。【A】が手探りで電気を探し、そしてまた周囲のみんなとアイコンタクトを交わしてから電気を点けた。

『え……どういうことだ?』

 その光景に驚いたのは、間違いなく【A】と【C】だったことであろう。なぜなら、部屋の中はもぬけの殻であり、首吊り死体なんてなかったのだから。

『あの、お客様……これは一体』

 【A】達の言葉を信じ、フロントから鍵を持って来てまで部屋を確認してくれたフロントマン。しなしながら、実際に部屋の鍵を開けてみると、そこには首吊り死体などなく、誰もいない部屋の景色が広がっていた。

『そんな――確かに、この部屋で人が首を吊っていたはずなのに』

 カメラが部屋の中へと入る【A】を追いかける。部屋の中はいたって普通であり、荷解きをしたスーツケースが置いてあるくらいだった。この部屋を使っているという【甲】のものであろう。【A】がシャワールームやトイレなども確認したが、部屋のどこにも【甲】の姿はなかった。首吊りをした人影が【甲】だとは限らないが、とにもかくにも【A】達が目撃したはずのものは部屋から忽然と姿を消してしまっていたのであった。

『あの、すいません。どうやら私達の勘違いだったようで。お忙しいのに申しわけありませんでした』

 なぜだか代表して頭を下げたのは【丙】だった。フロントマンからすれば堪ったものではないだろう。大山鳴動してネズミ一匹。これだけの大騒ぎをしたのに何事もなかったのだから。けれども、フロントマンは胸をなでおろしながら首を横に振る。

『いいえ、何事もなかったのですから良かったです。それでは、こちらのお部屋の鍵をかけさせて頂いてよろしいですか?』

 いまだに部屋の中で狐に摘まれたように立ち尽くしていた【A】と【C】。遠回しに部屋から出るようにフロントマンから促されて廊下に出た。廊下は必要最低限の明かりしか点いておらず薄暗い。

 フロントマンは部屋に鍵をかけると、【A】達に向かって頭を下げる。

『それでは、私はこれで失礼します。ごゆっくりとお休み下さいませ』
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