上 下
277 / 506
第3問 過去は明日と同じ夢を見るか【出題編】

34

しおりを挟む
『あっ――【丙】。いや、この部屋で人が首を吊ってるのを、俺達見たんだよ!』

 わざわざ【A】【B】【C】と【甲】【乙】【丙】と分けられた登場人物達。しかしながら、【A】の反応から察するに、どうやら双方は知り合いという設定のようだ。それならば、アルファベットに統一したほうがいいように思えるのだが。

『えっ。そこは――【甲】の部屋なんだけど、まさか【甲】が?』

 【丙】が言うと【A】と【C】が顔を見合わせ、表情をこわばらせる。そのリアクションからして、【甲】もまた【A】達と面識があるのだろう。どうでもいいことなのかもしれないが、しかし統一性がないことには疑問がわく。どうしてわざわざ分ける必要があるのだろうか。

『お待たせしました!』

 【A】達と【丙】が会話を交わしている間に、マスターキーを取りに行ったフロントマンが帰ってくる。

『あの、私も立ち会います』

 そう言うと部屋から出てくる【丙】。ホテルの部屋には、大抵部屋着が置いてあるが【丙】はそれを着ているようだった。ただ、自前なのか足元には厚手の靴下を履いていた。しかもズボンの裾まで一緒に巻き込んでだ。

 対面側の廊下で首を吊った人影を発見し、そのまま部屋まで駆けつけた【A】と【C】。隣の部屋だというのに、2人が駆けつけるまで騒ぎに気づかなかった様子の【丙】。状況が掌握できていないから、まだ何ともつかみ所のない事件になっているが、九十九はすでに違和感を抱き始めていた。

『お客様! お客様!』

 鍵を勝手に開けてしまう前に、念のために確認しておきたかったのであろう。やや乱暴に部屋の扉をノックするフロントマン。しかし、中からの反応はない。

『お客様、誠に勝手ではありますが、お部屋の鍵を開けさせていただきます』

 やきもきとしている様子の【A】達を尻目に、もう一度だけ確認を取るフロントマン。商売柄、分かってはいても客に対する確認は怠れないのであろう。

 フロントマンがようやく扉の鍵を開ける。カチャリと音がすると『あ、開きました』と、ドアノブから手を離した。部屋の中には首吊り死体があるかもしれないのだ。先頭に立って扉を開けるのには勇気がいることであろう。

『俺が開ける――』

 そこはさすが主人公といったところか。怖気づいたフロントマンに代わってドアノブに手を伸ばしたのは【A】だった。

 ドアノブに手をかけつつ、アイコンタクトをお互いに取る一同。これだけの騒ぎでありながら、廊下に顔を出したのは【丙】のみだ。もしかすると、かなり防音がしっかりしているのかもしれない。それならば、2人が駆けつけるまで、隣の部屋にいた【丙】が顔を出さなかったことにも納得できる。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

スローライフの鬼! エルフ嫁との開拓生活。あと骨

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:64

懴悔(さんげ)

歴史・時代 / 連載中 24h.ポイント:6,270pt お気に入り:10

正当な権利ですので。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:390pt お気に入り:1,098

主人公になれなかった僕は

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

視えるのに祓えない~九条尚久の心霊調査ファイル~

ホラー / 完結 24h.ポイント:3,834pt お気に入り:516

処理中です...