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第3問 過去は明日と同じ夢を見るか【出題編】

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 今回の再現映像は中途半端に力が入っていたのであろう。しかしながら、おそらく必要となる情報を映像だけでは伝えきれないと判断したと思われる。ゆえにちょくちょくナレーションが入り、滑稽な寸劇のように見えてしまうのであろう。なんとなくであるが、映像の作り方に関して癖のようなものが分かりつつある自分がいた。

 映像の中の【A】は【C】を強めの口調で、しかし声をひそめて起こした。しばらくすると【C】は文句を言いながら布団から出る。【A】が事情を説明すると【C】は『フロントに電話をしよう』と、内線電話のほうへと向かった。なんだかんだで【C】のほうが冷静な判断をしているように見える。

 【C】が内線電話の受話器を上げようとした瞬間のことだった。どこかから女性の悲鳴が小さく聞こえた。それは【A】と【C】の両者の耳にも入ったようで、非常灯の小さな灯りの中で互いに頷き合うと、着の身着のまま、しかし音を立てぬように部屋の外へと飛び出した。そこでまたしてもナレーション。

『廊下はひっそりと静まり返っていました。そして【A】達は見てしまうのです。中庭越しの客室――もっとも左端の部屋のカーテンが全開となっており、透き通ったガラス窓の向こう側には奇妙なシルエットが映っていました。消灯後の廊下は電気も最低限しか点けられておらず、だからこそ明かりの点いた中庭越しの部屋の中が良く見えたのかもしれません』

 中庭越しの部屋の中も、基本的には【A】達が泊まっている部屋の中と構造は同じようだった。ただ、ひとつだけ明確に違った部分があった。それは……奇妙なシルエットの正体が人だということ。わざとらしく画面がズームアップしてガラス越しの部屋の中を映し出す。それは、窓のほうに背を向ける形でぶら下がっていた。髪の長さからして女性だと思われる。だらりと垂れた四肢は、すでに事切れていることを物語っていた。

「おい、これやばいって!」

 画面が元へと戻り、それを発見したであろう【C】が叫ぶ姿が映り込む。その脇を抜けるようにして「いくぞ!」と走り出したのは【A】だった。女性の悲鳴らしきものは、【A】達だけに聞こえたものではなかったのであろう。小さく聞こえた女性の悲鳴は、きっと起きていた【A】達だからこそ聞き取ることができたのであろう。廊下はひっそりと静まり返ったままだった。

 【A】達の部屋は、首吊り遺体が見えた左端の部屋と、なかば向かいになるような場所にあった。ゆえに【A】と【C】は画面の左手側へと走り出し、角を曲がるとフロントの前を全力疾走。何事かといった様子でフロントマンが2人のほうへと視線をやる。【C】が『人が首を吊っているんです!』とだけ告げ、2人はフロントの前を全力疾走。
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