275 / 506
第3問 過去は明日と同じ夢を見るか【出題編】
32
しおりを挟む
今回の再現映像は中途半端に力が入っていたのであろう。しかしながら、おそらく必要となる情報を映像だけでは伝えきれないと判断したと思われる。ゆえにちょくちょくナレーションが入り、滑稽な寸劇のように見えてしまうのであろう。なんとなくであるが、映像の作り方に関して癖のようなものが分かりつつある自分がいた。
映像の中の【A】は【C】を強めの口調で、しかし声をひそめて起こした。しばらくすると【C】は文句を言いながら布団から出る。【A】が事情を説明すると【C】は『フロントに電話をしよう』と、内線電話のほうへと向かった。なんだかんだで【C】のほうが冷静な判断をしているように見える。
【C】が内線電話の受話器を上げようとした瞬間のことだった。どこかから女性の悲鳴が小さく聞こえた。それは【A】と【C】の両者の耳にも入ったようで、非常灯の小さな灯りの中で互いに頷き合うと、着の身着のまま、しかし音を立てぬように部屋の外へと飛び出した。そこでまたしてもナレーション。
『廊下はひっそりと静まり返っていました。そして【A】達は見てしまうのです。中庭越しの客室――もっとも左端の部屋のカーテンが全開となっており、透き通ったガラス窓の向こう側には奇妙なシルエットが映っていました。消灯後の廊下は電気も最低限しか点けられておらず、だからこそ明かりの点いた中庭越しの部屋の中が良く見えたのかもしれません』
中庭越しの部屋の中も、基本的には【A】達が泊まっている部屋の中と構造は同じようだった。ただ、ひとつだけ明確に違った部分があった。それは……奇妙なシルエットの正体が人だということ。わざとらしく画面がズームアップしてガラス越しの部屋の中を映し出す。それは、窓のほうに背を向ける形でぶら下がっていた。髪の長さからして女性だと思われる。だらりと垂れた四肢は、すでに事切れていることを物語っていた。
「おい、これやばいって!」
画面が元へと戻り、それを発見したであろう【C】が叫ぶ姿が映り込む。その脇を抜けるようにして「いくぞ!」と走り出したのは【A】だった。女性の悲鳴らしきものは、【A】達だけに聞こえたものではなかったのであろう。小さく聞こえた女性の悲鳴は、きっと起きていた【A】達だからこそ聞き取ることができたのであろう。廊下はひっそりと静まり返ったままだった。
【A】達の部屋は、首吊り遺体が見えた左端の部屋と、なかば向かいになるような場所にあった。ゆえに【A】と【C】は画面の左手側へと走り出し、角を曲がるとフロントの前を全力疾走。何事かといった様子でフロントマンが2人のほうへと視線をやる。【C】が『人が首を吊っているんです!』とだけ告げ、2人はフロントの前を全力疾走。
映像の中の【A】は【C】を強めの口調で、しかし声をひそめて起こした。しばらくすると【C】は文句を言いながら布団から出る。【A】が事情を説明すると【C】は『フロントに電話をしよう』と、内線電話のほうへと向かった。なんだかんだで【C】のほうが冷静な判断をしているように見える。
【C】が内線電話の受話器を上げようとした瞬間のことだった。どこかから女性の悲鳴が小さく聞こえた。それは【A】と【C】の両者の耳にも入ったようで、非常灯の小さな灯りの中で互いに頷き合うと、着の身着のまま、しかし音を立てぬように部屋の外へと飛び出した。そこでまたしてもナレーション。
『廊下はひっそりと静まり返っていました。そして【A】達は見てしまうのです。中庭越しの客室――もっとも左端の部屋のカーテンが全開となっており、透き通ったガラス窓の向こう側には奇妙なシルエットが映っていました。消灯後の廊下は電気も最低限しか点けられておらず、だからこそ明かりの点いた中庭越しの部屋の中が良く見えたのかもしれません』
中庭越しの部屋の中も、基本的には【A】達が泊まっている部屋の中と構造は同じようだった。ただ、ひとつだけ明確に違った部分があった。それは……奇妙なシルエットの正体が人だということ。わざとらしく画面がズームアップしてガラス越しの部屋の中を映し出す。それは、窓のほうに背を向ける形でぶら下がっていた。髪の長さからして女性だと思われる。だらりと垂れた四肢は、すでに事切れていることを物語っていた。
「おい、これやばいって!」
画面が元へと戻り、それを発見したであろう【C】が叫ぶ姿が映り込む。その脇を抜けるようにして「いくぞ!」と走り出したのは【A】だった。女性の悲鳴らしきものは、【A】達だけに聞こえたものではなかったのであろう。小さく聞こえた女性の悲鳴は、きっと起きていた【A】達だからこそ聞き取ることができたのであろう。廊下はひっそりと静まり返ったままだった。
【A】達の部屋は、首吊り遺体が見えた左端の部屋と、なかば向かいになるような場所にあった。ゆえに【A】と【C】は画面の左手側へと走り出し、角を曲がるとフロントの前を全力疾走。何事かといった様子でフロントマンが2人のほうへと視線をやる。【C】が『人が首を吊っているんです!』とだけ告げ、2人はフロントの前を全力疾走。
0
お気に入りに追加
183
あなたにおすすめの小説
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
婚約者の幼馴染?それが何か?
仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた
「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」
目の前にいる私の事はガン無視である
「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」
リカルドにそう言われたマリサは
「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」
ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・
「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」
「そんな!リカルド酷い!」
マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している
この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ
タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」
「まってくれタバサ!誤解なんだ」
リカルドを置いて、タバサは席を立った
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる