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第3問 過去は明日と同じ夢を見るか【出題編】

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 左右に伸びる廊下のうち、片方だけが中庭に面しており、もう片方は客室が中庭に面している。この形も、いわゆる錯視というものを引き起こすための構造なのかもしれない。客室の壁の両端に立て掛けられているベニヤ板も、錯覚を引き起こす一員になっているらしい。

「あれだ。2本の線があって、片方は両端が内向きの矢印の形になっていて、もう片方の両端は外向きの矢印になっているやつだ。ぱっとみた感じ、矢印が外向きになっているほうの線が長くて、矢印が内向きになっているほうの線が短く見えるんだが、その線の長さ自体は実は同じ――っていう錯視絵みたいだな」

 中庭越しに見える客室の壁。廊下の長さはどちらも同じはずであるが、画面越しに見ても、客室側の壁のほうが短いように見えてしまう。この状況は、出雲が例えに出した錯視絵がぴったりと当てはまった。もちろん、内向きの矢印も、外向きの矢印もないわけではあるが――。客室の窓から中庭越しに廊下を見ると、そちらのほうは長く見えたりするのだろうか。再現映像では確認することが叶わなかった。なぜなら『ここで惨劇は起きてしまったのです――』とのナレーションが流れたのち、しばらくすると画面が暗転して、全く別の画面へと切り替わったからだ。

 切り替わった映像は崖の映像だった。それこそ資料映像ではないかと思われるような古臭いものであり、崖の向こう側では夕日が沈もうとしていた。そこに安っぽく、それでいてキャッチーな音楽と同時に白地のテロップが表示された。しかも力強い毛筆らしきフォントだった。

 ――錯覚館の殺人! 人里離れた閑静なホテルで起きた殺人事件。目撃された首吊り現場と、消えた首吊り死体。再びそれが現れた時に浮かび上がった呪いのメッセージ。

 あぁ、これ――小さい頃、日曜日の午後下がりにやってたやつに似ている。大抵が二時間ものであり、なぜか犯人を追い詰める時は崖が舞台になりがちのミステリードラマ劇場である。目にするものは大抵が再放送であり、面白いというわけでもないが、最後まで観てしまうやつだ。どうやら、今回はそれを再現しようとしているらしい。それっぽいBGMが鳴り響いたまま画面が切り替わり【登場人物】とのテロップのあとに、文字通りの登場人物紹介が始まった。完全にそれの作りそのものである。

 とりあえず街中らしき場所を、革ジャンを着た中年くらいの男が、カメラに向かって全力疾走。その途中で蹴つまずき、倒れる瞬間のところで映像が止まる。

 ――行く先々に災難あり、彼の名は【A】。
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