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第3問 過去は明日と同じ夢を見るか【出題編】

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 フロントから左手に向かったほうの廊下は、客室が中庭側のほうに向かって並んでいる。一方、フロントから右手に向かったほうの廊下は、中庭と反対側に客室が並んでいるのだ。上空から見た限りでは、中庭を含めて綺麗な正方形に見える建物であるが、中の構造はやや異なっているらしい。片側が中庭側にせり出し、もう片方は中庭の反対側にせり出しているように見える構造になっているんけだ。映像はざっと廊下を駆け抜けただけだから、客室の中がどうなっているかまでは見えなかった。

 フロントの反対側――【ロの字】の上辺となる部分は、廊下の外側に部屋が設けられ、に食事ができるスペースが設けられているようだった。映像が駆け抜ける際に扉が開いており、カメラがそちら側を向いてくれたから分かったことだが、簡単に例えると、朝食バイキングの会場のようだった。いいや、ちょっと小洒落たホテルの宴会場とも言えるだろう。他にあるいくつかの扉は、厨房に続いていたり、裏口があったりと、様々なのであろう。特に詳しい説明があったわけではないから分からない。

 ぐるりとホテルの中を一周した映像は、エントランスから一度外に出ると急上昇――したかと思ったら降下して、中庭のほうへと向かった。久方ぶりのナレーションが入る。

『こちらのホテル……実際の名前を出すわけにはいきませんが、地元の方々からは【錯覚館】と呼ばれております。その主たる理由は、こちらになります』

 ナレーションに合わせて降下した画面は、中庭の映像を映し出す。向こう側の廊下の壁の両端には、何のつもりなのかベニヤの板が何枚か並んで立て掛けられており、露出した壁には同じ形の窓らしきものが並んでおり、全ての部屋の窓にはカーテンがかけられていた。客室の窓なのであろう。つまり、中庭が見える廊下のほうから、中庭越しに反対側の客室の壁を見ているような形になる。もちろん、客室の向こう側には、こちらと同じように廊下がある。どうせなら、客室を中庭側か外側かのどちらかに統一したほうが、建物として整合性がとれているように思えるのだが、どうしてこんな造りになっているのだろうか。

『ご覧ください。こちらから反対側の廊下を見ると、明らかに反対側の廊下が短いように感じられます。しかし、中庭の木々の配置などで起こっている錯覚であり、実際は同じ長さの廊下なのです』

 なるほど、だから【錯覚館】か。確かに、映像を見る限りでは、反対側に見える廊下のほうが明らかに短いように見える。しかし、上空から見た映像の通り、この建物自体は綺麗な正方形のはず。もちろん、廊下の長さが異なるということもない。
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