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第3問 過去は明日と同じ夢を見るか【出題編】

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【2】

 人間というものは不思議なもので、時計がなくとも、ある程度のリズムを保って生活を送ることができる。小野寺と出雲の場合は、窓の外に見える景色から、それが朝なのか、夕方なのか、夜なのか、はたまた夜明けなのかを判断することができるから、きっと体内時計も大きく狂わないのであろう。

 クイズ番組が終わってしまえば、翌日の10時までやることがなくなってしまう小野寺と出雲。しっかり朝、昼、晩と腹が減るし、煙草への欲求も、おそらく1時間刻みくらいでやってくる。食料庫にはまだ在庫があるようだが、もう少し大切に吸うようにしたほうがいいかもしれない。やることがないから、自然と煙草に手が伸びてしまうのかもしれないが。

 自然と朝になれば目が覚める。小野寺の朝一番の仕事は、出雲を起こすことから始まる。いびきをかいて寝ている出雲に声をかけると、シャワーを浴びに向かうのが日課だ。スーツやら下着やらを洗いたい気持ちを抑えつつ、シャワーを浴びると仕方なく同じ下着を履き、そしてスーツを着る。今はまだいいが、この状況が長引けば長引くほど、着られたものではなくなることだろう。

 シャワーから出ると、出雲がようやく起き出してくる。簡単に挨拶を済ませると、食糧庫から適当な食糧を持ってきて、朝食を済ませる。出雲は夜になると、初日ほどではないが酒をたしなむため、朝食は摂らない。朝は胃が受け付けないそうだ。

 朝食が終わったら、番組が始まるまで、それぞれが思うように過ごす。食糧庫を漁ってみたり、出口がないかと探してみたりするが、それでも潰せる時間には限界がある。寝起きの出雲は、ぼんやりとしながら煙草の煙を吐き出しているのがほとんどだ。そして、やっとブラウン管で例の番組が始まる。今の小野寺と出雲の1日は、クイズ番組をやっている10時から、降板した緊急特番が終わるまでに収束していると言っても過言ではない。

 クイズ番組と緊急特番が終わってしばらくすると、昼食の時間となる。しかしながら、緊急特番で人の死を目の当たりにしてしまうせいか、昼食はちょっと無理をして食べるような形になってしまう。ならばいっそのこと昼食を抜けばいいと言われてしまいそうだが、リズムを崩さないように食べる必要があると小野寺は考えていたし、1日がほんの数時間に凝縮されてしまっている今においては、昼食を摂るという行為でさえ、ある種の時間潰しになっていた。ベテランの刑事である出雲は、小野寺より場数を多く踏んでおり、遺体も見慣れているからなのだろう。平気で昼食を摂る。夜は酒を飲みながら、つまみになりそうなものを細々と食べるだけだから、彼にとってメインのエネルギーチャージは、間違いなく昼食ということになるのだろう。

 昼食後は、番組に関して出雲と議論を交わすが、しばらくすると出雲が寝息を立て始める。それにつられるようにして小野寺も目を閉じる。3食昼寝付きといえば聞こえだけはいいのかもしれない。
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