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第3問 過去は明日と同じ夢を見るか【出題編】

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 どうやって楽屋から連れてきたのであろう。まぁ、藤木が柚木の腕を掴んでいる時点で、ある程度強引にやったであろうことが伺える。もはや、時間になったらスタジオに赴くことが当たり前のようになっていたが、きっと柚木のようにスタジオ行きを拒否するのが、正しい反応なのであろう。

 柚木本人は、特に抵抗するでもなく、黙って藤木の後に続いた。うつむいているから表情までは分からないが、間違いなく笑顔ということだけはない。ネガティブな表情をまとっていることであろう。

 一同が見守る中、藤木は柚木を解答席までエスコートする。安っぽいBGMも、なかったらなかったで寂しいものだ。静寂の中に響く2人の足音が耳に痛いくらいである。

 解答席に力なく座る柚木。藤木が解答席を離れ、司会者の立ち位置へと戻る。すると、柚木はゆっくり顔を上げ、すっかり憔悴しきった表情を見せた。

「あの、皆さん。ご迷惑をおかけしてすいませんでした――」

 そう言って頭を下げるが、どうにも言わされている感じがする。藤木と柚木の間でどんなやり取りがあったのかは分からないが、恐怖を感じてスタジオから逃げ出した人間が、まず真っ先に周囲へと迷惑をかけたことを謝罪することができるだろうか。そこまで気が回るとは思えない。

「さて、伊良部さんもこう言ってますし、今回は大目に見て差し上げませんか?」

 その表情に笑みを浮かべつつ、九十九を含む解答者へと促してくる藤木。番組に支障が生じようとも、進行が遅れようとも、九十九達からすれば痛くもかゆくもない。演者がいなくなって困るのは番組側であり、ゆえに大目に見るもなにも、彼女に謝罪してもらう必要もない。

「別にいいだろ。俺達に迷惑がかかったわけじゃねぇんだし」

 あえて、長谷川のほうへと視線をやって同意を求める。心中では黒幕扱いされて面白くないし、なんだかモヤモヤとしたものが残ってはいるが、表向きだけでも和解した形にしておきたい。こちらから同意を求めることで、一応はこちらが許したというサインを出したつもりだ。

「あ、あぁ。そうだな。俺達は全然気にしていないよ。みんなもそうだよな?」

 九十九を徹底的に黒幕扱いした後ろめたさのようなものがあったのであろう。九十九の言葉に同意を示すと、罪滅ぼしかのごとく周囲にも同意を求める長谷川。もちろん、柚木の取った行動に苦言を呈する者などいなかった。
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