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第3問 過去は明日と同じ夢を見るか【出題編】

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「となると――状況的に考えて、数藤のおっさんは毒殺された可能性が高い。そして、実は数藤のおっさんは、俺の目の前で、番組から差し入れてもらったというものを口にしてるんだよ」

 数藤が番組側から差し入れとしてもらったものは言うまでもないだろう。本人がそう言っていたし、それを口にしている姿を見たのは九十九だけではない。

「まさか、あのシャンパン――」

 あれが番組側から差し入れされたものであることを知らない凛。正確に言えば、それを伝える前にグラスを空にしてしまったわけであるが、九十九が妙に凛の体を気遣ったことや、藤木と九十九のやり取りの間でシャンパンというワードが出ていたことで、あらかたを察したのであろう。やや声を震わせながら呟いた。

「あぁ、数藤のおっさんが番組から差し入れとしてもらい、桃山も一緒になって俺の楽屋で飲んだもの――その明らかに怪しさ満点のものこそが、あのシャンパンだ」

 九十九の言葉に「マジ?」と凛。しかしながら、彼女がシャンパンを口にしてから、かなりの時間が経過している。それこそ、あの場が収束してから、それぞれに楽屋で一晩を明かし、また決まった時間にスタジオに集まっているのだ。けれども、凛はピンピンしている。

「そのシャンパンの中に毒が入っていて、それを飲んだ数藤さんは死んでしまった――そう言いたいのか?」

 どうにも攻撃的な態度の長谷川。随分と警戒されてしまったし、嫌われてしまったようだ。いいや、次々と人が死んでいるという状況――仮想敵でもいいから作っておかないと、そろそろメンタル的にまずいのかもしれない。長谷川は九十九を黒幕だと決めつけることで、ある種の安心感を得ようとしている。九十九以外の人間ならば安全である――そんな、根拠もない都市伝説を作り上げようとしているのだ。

「あぁ、察するに即効性の毒じゃなくて、遅効性の毒が使われたんだろうな。この辺りの正確なことは藤木に聞かねぇと分からねぇけどよ」

 九十九の言葉を鼻で笑う長谷川。強気に出て、なんとか自分を保とうとしているように見えて仕方がない。男尊女卑など遥か昔の話になってしまったが、九十九を除くと唯一の男性となる長谷川。自分がしっかりしなければと、勘違いした責任感でも抱いているのかもしれない。

「もしシャンパンに毒が入っていたとすれば、犠牲者は数藤さんだけじゃなかったはずだ。しかし、実際の犠牲者は数藤さんのみだ。もし、そっちの話が全て事実だとしたら、一緒になってシャンパンを飲んだ桃山さんも、死んでいなければおかしいんじゃないか?」
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