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第3問 過去は明日と同じ夢を見るか【プロローグ】

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「九十九の楽屋で数藤は殺されたってことか? だったら、もしかすると九十九が黒幕なのか?」

 画面の中の九十九と長谷川は、おそらく司馬の楽屋であろう扉の前で立ち止まると、一旦、数藤の体を廊下の床へと置く。長谷川は扉の前で両手を合わせると、その扉を開いた。角度の都合で見えはしなかったが、その扉の向こう側には、司馬もいるのであろう。

「――それはちょっと安直すぎるというか、もし本当にそうだったら、かなり間抜けな話になりますね。司馬の時は徹底して誰がやったのか分からないように立ち回っておきながら、今度は楽屋の中で殺すなんて……まるで自分が黒幕ですよって言っているようなものじゃないですか」

 長谷川と九十九が数藤の体を持ち上げ、楽屋の中へと姿を消した。状況がまだはっきりと分からないからなんとも言えないが、しかし九十九の楽屋で数藤が死んだからと言って、簡単に九十九が殺したのだと断定するのは危険だ。

「そうか。まぁ、俺達が黒幕の正体にたどり着いたところで、この番組がどうかなるわけじゃないし、画面の向こう側にいる解答者達を救えるわけでもないから、考えるだけ無駄なんだがな」

 確かに出雲の言う通り、小野寺達が黒幕の正体にたどり着いたところで、どうしようもない。推理小説において、読者がかなり早い段階で犯人を見抜いたとしても、そんなのはお構いなしで犠牲者が増えていくのと同じ。小野寺達は傍観者であり、また観測者でしかない。その事象そのものに影響を及ぼすことはできないであろう。だが、小野寺は小さく首を横に振った。

「無駄かもしれませんが、いち刑事としての血といいますか、妙に引っかかる点があるのも事実です。情報が少ない状態ではありますけど、自分は自分なりに考えてみようとは思ってますよ。どうせ、番組が終わってしまえば暇なわけですから」

 時間ばかりは腐るほどあった。わけも分からずに監禁されている小野寺達からすれば、解答者達には申しわけないが、このクイズ番組は唯一のエンターテイメントになりつつある。不謹慎ではあるが、延々と流れていく時のなかでの、たったひとつの刺激だった。なんだか黒幕の思惑通りになっているような気がしないわけでもないが、それはまぎれもない事実である。

『さてぇ、どうしてこんなことになってしまったのでしょう? あちらにいる女性陣に、少しお話を伺いましょうか』

 画面の中の藤木は、下手するとクイズ番組の時より生き生きしているように見えた。もういっそのこと、この男こそ黒幕だということになればスッキリするのであるが、これまでの情報から考えるに、彼はあくまでも協力者という立場であり、黒幕ではないようだ。
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