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第3問 過去は明日と同じ夢を見るか【プロローグ】
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『テレビをご覧の皆さん。またしてもお会いしましたね。クイズ 誰がやったのでSHOW、司会の藤木流星です』
特番の時はどうしても声をひそめた段階からスタートしなければならないのだろうか。そんな藤木とは対象に、彼の背景からは明らかに騒然とした空気が流れてくる。
廊下に面した扉のひとつが開け放たれており、心配そうに女性達が覗き込んでいる。部屋から漏れる明かりが逆光となっており、そこに居るのが誰なのかまでは分からなかった。
『ついさっきのことなのですが、どうやら数藤学さんが降板なされたようです。しかも、今回はどうやらですね、数藤さんが降板される瞬間に立ち会った方がいるみたいなんですよ。では、さっそく数藤さんの元へと向かってみましょう』
カメラで自分の姿を自撮りする形で、喧騒が漂う部屋の前へと向かう藤木。その姿に気づいたのか、自然と女性陣が後ろへと退いた。ちらりと映った柚木の両目は真っ赤になっており、泣き腫らしていた真っ最中であるということが伺われる。凛、アカリ、眠夢は――泣くほどではなかったのであろうが、顔面は真っ青だった。
『はい、ちょっと失礼しますよ。すいませんねぇ、失礼しますよ』
わざわざ後ろに退いて道を作ってくれたというのに、人払いをするかのごとく、女性陣を押し退けようとする藤木。堪ったものではないとばかりに、さらに一歩、女性陣が後ろに下がった。指一本たりとも触れられたくない。そんなニュアンスが画面越しからも伝わってくる。
カメラは女性陣達の姿を尻目に、部屋の中を覗き込むようなアングルで中を映し出した。
長谷川と九十九が、人を運び出そうとしていた。だらりと垂れた四肢は、すでに息がないことを物語っている。頭のほうを長谷川が持ち、そして足のほうを九十九が持ち、白衣姿のかつて人だったものは、体をそのまま2人に預ける。九十九が藤木のことを睨みつけた。
『おい……邪魔だからどけよ』
部屋の中に入った藤木が邪魔なポジションに立っていたのであろう。今にも食ってかかろうとせんばかりの迫力を見せる九十九。次の瞬間、運ばれようとしている人の顔だけが、何かを訴えるかのようにカメラのほうを向いた。たまたま長谷川の持ち方の都合で、重力に従ってそうなっただけなのであろうが、さすがにゾッとしてしまった。目を見開いたその顔は、まぎれもなく数藤のものだった。
『おっと、これは失礼――。司馬さんの楽屋にでも運ぶおつもりですかねぇ? まぁ、さすがに自分の楽屋に死体があるというのは、気味が悪いですものねぇ。九十九さん……』
九十九に向かって放たれた藤木の言葉を、丸無視して楽屋を後にする九十九。
特番の時はどうしても声をひそめた段階からスタートしなければならないのだろうか。そんな藤木とは対象に、彼の背景からは明らかに騒然とした空気が流れてくる。
廊下に面した扉のひとつが開け放たれており、心配そうに女性達が覗き込んでいる。部屋から漏れる明かりが逆光となっており、そこに居るのが誰なのかまでは分からなかった。
『ついさっきのことなのですが、どうやら数藤学さんが降板なされたようです。しかも、今回はどうやらですね、数藤さんが降板される瞬間に立ち会った方がいるみたいなんですよ。では、さっそく数藤さんの元へと向かってみましょう』
カメラで自分の姿を自撮りする形で、喧騒が漂う部屋の前へと向かう藤木。その姿に気づいたのか、自然と女性陣が後ろへと退いた。ちらりと映った柚木の両目は真っ赤になっており、泣き腫らしていた真っ最中であるということが伺われる。凛、アカリ、眠夢は――泣くほどではなかったのであろうが、顔面は真っ青だった。
『はい、ちょっと失礼しますよ。すいませんねぇ、失礼しますよ』
わざわざ後ろに退いて道を作ってくれたというのに、人払いをするかのごとく、女性陣を押し退けようとする藤木。堪ったものではないとばかりに、さらに一歩、女性陣が後ろに下がった。指一本たりとも触れられたくない。そんなニュアンスが画面越しからも伝わってくる。
カメラは女性陣達の姿を尻目に、部屋の中を覗き込むようなアングルで中を映し出した。
長谷川と九十九が、人を運び出そうとしていた。だらりと垂れた四肢は、すでに息がないことを物語っている。頭のほうを長谷川が持ち、そして足のほうを九十九が持ち、白衣姿のかつて人だったものは、体をそのまま2人に預ける。九十九が藤木のことを睨みつけた。
『おい……邪魔だからどけよ』
部屋の中に入った藤木が邪魔なポジションに立っていたのであろう。今にも食ってかかろうとせんばかりの迫力を見せる九十九。次の瞬間、運ばれようとしている人の顔だけが、何かを訴えるかのようにカメラのほうを向いた。たまたま長谷川の持ち方の都合で、重力に従ってそうなっただけなのであろうが、さすがにゾッとしてしまった。目を見開いたその顔は、まぎれもなく数藤のものだった。
『おっと、これは失礼――。司馬さんの楽屋にでも運ぶおつもりですかねぇ? まぁ、さすがに自分の楽屋に死体があるというのは、気味が悪いですものねぇ。九十九さん……』
九十九に向かって放たれた藤木の言葉を、丸無視して楽屋を後にする九十九。
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