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第2問 虚無の石櫃【エピローグ】

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 このクイズ番組の目的はなんなのか。ただただ犯罪に手を染めた人間が断罪されること自体が目的となっているのか。そのために、わざわざ8人もの人間を拉致して、これだけのスタジオを用意したというのだろうか。それに、表面上は未解決となったはずの事件の真相を、番組側は何かしらの手段で知っている。そうでなければ、未解決の事件を題材としたクイズなんて出せないはずだ。考えれば考えるほど、分からないことが増えていく。

「もしかすると、他にもその悪徳刑事とやらと取引をしたやつがいるかもしれねぇなぁ」

 ぽつりと呟いた言葉に、数藤が頷いた。

「だとしたら、悪徳刑事が何かしらの形で、このクイズ番組にも関与しているのかもし――」

 数藤がそこで言葉を止めたかと思ったら、頬を大きく膨らませた。まるでいじけて頬を膨らませた子どもであるかのごとく。次の瞬間、数藤は口の中から、空気ではなく赤く染まった鮮血を吐き出した。

「お、おい。おっさん――どうしたんだよ?」

 九十九の呼びかけも耳に届いていないかのように、その視線を真っ直ぐ前に向けたまま倒れる数藤。先ほどの笑えない冗談の時は支えてやろうと動けたはずなのに、今回はまるで動けなかった。本能的に、そうすることが無駄であることを知っていたのかもしれない。

「お、おのれ……。ど、どうして」

 まな板の上に乗った魚のごとく細かく痙攣を始めた数藤。彼が吐き出した鮮血が、彼のちょうど顔辺りに絡まりつき、白かった床に赤を擦り付ける。

「おい! しっかりしろよ!」

 数藤を抱え上げるが、しかしその呼吸は弱々しく、口の端からは血の混じった泡を吹き始めている。もう助からないのは明白だった。真っ先に毒を連想する。やっぱりシャンパンの中に毒が入っていたのか。だとしたら、同じくシャンパンを飲んだ凛も危ない。

 もう九十九の問いかけに答える余力もないのであろう。最期の足掻きとばかりに大きく呼吸を乱すと、数藤は振り絞るように言葉を紡いだ。

「お、おの……でら」

 それが一体何を意味するのか。大きく目を見開いた数藤は、そのまま首をがっくりと折った。その目から生気が失われていくのが分かった。

「おい! おっさん! おっさん!」

 激しく体を揺さぶってみたが、数藤は体を完全に預け、ぴくりとも動かなかった。彼の最期の言葉は――おそらく人の名前であると思われる【おのでら】なるもの。乱暴に数藤の上半身を床に放り投げると、九十九は大きく舌打ちをした。

「【おのでら】って――誰だ?」

 ――むろん、数藤は答えてくれない。


【第2問 虚無の石櫃 ―完―】

 
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