233 / 506
第2問 虚無の石櫃【エピローグ】
10
しおりを挟む
実のところ、これは第1問目の時点で抱いていた疑問でもあった。
司馬が手を染めた殺人に関しても、不審な点がいくつか残っている。例えば、川の上流から遺体を流すというトリック。長いこと川を下っていけば、衣服に多少の傷がついたり、遺体そのものに、川を下ってきた痕跡が残されていてもおかしくはない。けれども、クイズとして出された事件の概要には、そのような情報は含まれていなかった。それに、司馬は被害者を殺害した後、自分の車に遺体を隠したわけだが、それだって簡単に見つかってしまいそうなものだ。それなのに、まるで絵に描いたように司馬の犯罪は成功し、彼は警察に捕まらなかった。そして、数藤もまた警察には捕まっていない。
「くっくっくっくっ――世の中にはねぇ、善行をする悪人はいなくとも、悪行に手を染める善人はいるということなんだ」
意味深なことを口にすると、笑いを噛み殺す数藤。
「……それ、どういう意味だ?」
九十九の問いに、数藤は3杯目となるシャンパンをグラスに注ぎながら口を開く。
「そのままの意味だよ。世の中、金さえあれば、ある程度はうまくまかり通ってしまうのさ。私はある人物と取り引きしたんだ。その結果――警察から逮捕されずに済んだんだよ」
九十九は事件のことを再現映像としてしか知らない。けれども、第2問までやって来て率直に感じたことがひとつ。クイズとして趣向を凝らしたものにはなっているが、これを普通の事件であると見た場合、決して警察に解けない謎ではない。むしろ、日本の警察は優秀であり、この程度の事件ならば簡単に犯人を検挙できたはず。けれども、実際のところ司馬と数藤は警察に捕まっていない。
「その、ある人物ってのはもしかして」
ここまでの話を聞いた時点で理解した。金を渡すことで事件がどうこうなってしまう可能性があるのは……特定の職種しかいないだろう。
「悪徳刑事さ。以前からちょっとした噂になっていてねぇ。金さえ渡せば、事件を絶対に揉み消してくれる刑事がいるって――。そいつと契約を結んだんだよ。だから、私が起こした事件はお蔵入り。未解決となったんだ」
それは九十九からすれば単純な疑問にすぎなかった。しかし、その疑問の答えには、悪徳刑事という予期せぬものが含まれていた。そんなものはドラマだとか漫画の中の話だと思っていたからだ。
「おいおい、おっさん。それ真面目に答えてんのか? そんな非現実的なことを言われても――」
司馬が手を染めた殺人に関しても、不審な点がいくつか残っている。例えば、川の上流から遺体を流すというトリック。長いこと川を下っていけば、衣服に多少の傷がついたり、遺体そのものに、川を下ってきた痕跡が残されていてもおかしくはない。けれども、クイズとして出された事件の概要には、そのような情報は含まれていなかった。それに、司馬は被害者を殺害した後、自分の車に遺体を隠したわけだが、それだって簡単に見つかってしまいそうなものだ。それなのに、まるで絵に描いたように司馬の犯罪は成功し、彼は警察に捕まらなかった。そして、数藤もまた警察には捕まっていない。
「くっくっくっくっ――世の中にはねぇ、善行をする悪人はいなくとも、悪行に手を染める善人はいるということなんだ」
意味深なことを口にすると、笑いを噛み殺す数藤。
「……それ、どういう意味だ?」
九十九の問いに、数藤は3杯目となるシャンパンをグラスに注ぎながら口を開く。
「そのままの意味だよ。世の中、金さえあれば、ある程度はうまくまかり通ってしまうのさ。私はある人物と取り引きしたんだ。その結果――警察から逮捕されずに済んだんだよ」
九十九は事件のことを再現映像としてしか知らない。けれども、第2問までやって来て率直に感じたことがひとつ。クイズとして趣向を凝らしたものにはなっているが、これを普通の事件であると見た場合、決して警察に解けない謎ではない。むしろ、日本の警察は優秀であり、この程度の事件ならば簡単に犯人を検挙できたはず。けれども、実際のところ司馬と数藤は警察に捕まっていない。
「その、ある人物ってのはもしかして」
ここまでの話を聞いた時点で理解した。金を渡すことで事件がどうこうなってしまう可能性があるのは……特定の職種しかいないだろう。
「悪徳刑事さ。以前からちょっとした噂になっていてねぇ。金さえ渡せば、事件を絶対に揉み消してくれる刑事がいるって――。そいつと契約を結んだんだよ。だから、私が起こした事件はお蔵入り。未解決となったんだ」
それは九十九からすれば単純な疑問にすぎなかった。しかし、その疑問の答えには、悪徳刑事という予期せぬものが含まれていた。そんなものはドラマだとか漫画の中の話だと思っていたからだ。
「おいおい、おっさん。それ真面目に答えてんのか? そんな非現実的なことを言われても――」
0
お気に入りに追加
183
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―
鬼霧宗作
ミステリー
窓辺野コトリは、窓辺野不動産の社長令嬢である。誰もが羨む悠々自適な生活を送っていた彼女には、ちょっとだけ――ほんのちょっとだけ、人がドン引きしてしまうような趣味があった。
事故物件に異常なほどの執着――いや、愛着をみせること。むしろ、性的興奮さえ抱いているのかもしれない。
不動産会社の令嬢という立場を利用して、事故物件を転々とする彼女は、いつしか【ロンダリングプリンセス】と呼ばれるようになり――。
これは、事故物件を心から愛する、ちょっとだけ趣味の歪んだ御令嬢と、それを取り巻く個性豊かな面々の物語。
※本作品は他作品【猫屋敷古物商店の事件台帳】の精神的続編となります。本作から読んでいただいても問題ありませんが、前作からお読みいただくとなおお楽しみいただけるかと思います。
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ミノタウロスの森とアリアドネの嘘
鬼霧宗作
ミステリー
過去の記録、過去の記憶、過去の事実。
新聞社で働く彼女の元に、ある時8ミリのビデオテープが届いた。再生してみると、それは地元で有名なミノタウロスの森と呼ばれる場所で撮影されたものらしく――それは次第に、スプラッター映画顔負けの惨殺映像へと変貌を遂げる。
現在と過去をつなぐのは8ミリのビデオテープのみ。
過去の謎を、現代でなぞりながらたどり着く答えとは――。
――アリアドネは嘘をつく。
(過去に別サイトにて掲載していた【拝啓、15年前より】という作品を、時代背景や登場人物などを一新してフルリメイクしました)
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる