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第2問 虚無の石櫃【解答編】

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 大きな溜め息が漏れた。それは九十九が漏らしたものだった。

「諦めが悪いというか、頭の回転が早い教授様なら、自分が置かれていた立場くらい分かってくれると思ったのによ。やっぱ、勉強ってのは実戦向きじゃねぇな。頭が良いのと勉強ができるってのは、まるで別物ってこと。まぁ、言い換えればあんたは単なる馬鹿ってことだな」

 まるで負け惜しみだ。何と言われようとも結果は覆らない。勝敗は変わらないのだ。ならば、最後の負け惜しみくらいしっかりと聞いてやろうではないか。

「くくくくくっ……。負け犬の遠吠えというやつか。何とでも言うがいいさ。結果は変わらないのだからな」

 数藤が勝ち抜け。これが結果だ。解答者の誰かには犠牲になってもらうことになるが、そもそも昨日今日まで赤の他人だった人間だ。いちいち赤の他人が死んだくらいで悲しんでいたら、毎日のように悲しみに暮れなければならないだろう。こんな不遇な環境で理不尽に命を奪われることには同情するが、しかし仕方がない。自分のために死んでもらうとしよう。もう、この不遇な環境からおさらばするのだから関係ない。ここにいるやつらと関わることもないだろう。

「確かに――結果は変らねぇよ。ただ、あんたがちょっとだけ勘違いしてんだよ」

 九十九はそう言うと、アカリと眠夢のほうへと視線をやり、意味深な一言を放った。

「おい、もう自分の席に戻っていいぞ……」

 九十九の言葉を受けて、アカリと眠夢が立ち上がる。自分の席って――最初から自分の席に着席しているではないか……そこまで思考した時点で、数藤はようやく気づいた。まさか、こんな子ども騙しに引っかかってしまったのたか。だとすればピエロだ。自分はピエロのように周囲からの嘲笑ちょうしょうに晒されていたということになる。

「ふ、ふふふふふっ……ふざけるな! こ、こんな馬鹿なことが許されていいわけがない!」

 自分でも声が震えているのが分かった。むしろ、声が震えてはっきりと喋れない。それだけ、自分の中でのショックが大きかったのだろう。

「この状況を見ても、藤木は何も言わなかっただろ? それに――自分の解答席で解答しなきゃいけないなんてルールは無ぇからなぁ」

 アカリと眠夢の足音だけが響いた。彼女達はゆっくりと歩き、そしてすれ違い――お互いが座っていた解答席へと座った。眠夢がアカリの解答席へ、そしてアカリが眠夢の解答席へ。それを見た九十九が勝ち誇ったかのように言い放った。

「ご覧の通り、休憩時間が終わってから今の今まで、西んだよ。まぁ、相貌失認症のあんたには気づけなかっただろうけどよぉ」
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