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第2問 虚無の石櫃【解答編】

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「双子は顔が同じだから、区別する必要がない――相貌失認症である寝坊教授は、そう考えたからこそ同じシャツにしたのかもしれない。お前が腑に落ちないのは、1号と2号が男女の双子だったからだろ?」

 九十九の言葉に頷く凛。一体、何がおかしいというのだ。元より同じ顔をしているのだから、双子の区別はつかなくて当然。ゆえに、同じシャツを着させるようにした。わざわざ区別する必要がない人間を区別するために、シャツの色を変える必要などない。

「うん、凛の友達にもいるんだけど、男女の双子って――基本的に全く似てないよね? だったら、1号と2号も別々のシャツじゃなきゃいけないよね?」

 その一言に、思わず九十九の表情を伺う。もっとも、銀髪の猿は表情ひとつ変えないし、多少変えたところで数藤には分からないのであるが。

「――異性の双子というのは厳密には双子じゃない。たまたま同じタイミングでふたつの卵子が着床しただけのものだ。つまり、一卵性ではなく二卵性。タイミングがズレれば兄妹、姉弟という形で生まれてきていたわけだから……当然、顔も瓜二つということにはならない。けれども、元より他人の顔の区別ができない寝坊教授は、双子という情報だけで1号と2号は区別する必要がないと判断したんだよ。皮肉な話だろ? 相貌失認症だからゼミ生をシャツの色で区別しようとしたのに、相貌失認症のせいで双子の顔がまるで似ていないことに気づかず、区別できないものとして処理しようとしたんだからよ。これこそ、寝坊教授が相貌失認症だったという状況証拠でもある」

 元より他人にあまり興味がないことが災いしたか。いや、どいつもこいつも同じ顔をした連中に興味を示せというほうが無理な話だ。それゆえに1号と2号の顔つきがまるで違うことに気づかず、双子という前情報だけで、区別する必要がないと判断してしまった。それが逆に相貌失認症を露呈することになるなんて。

「犯人目線で再現された映像では、会う人全てが猿の顔をしていた。これも犯人が相貌失認症であるという示唆だった――そして、再現映像から統合して考えるに、犯行が可能だった人物も、相貌失認症であったと思える人物も、寝坊教授しか考えられない。くわえて、その寝坊教授と同じ相貌失認症の人間がこのスタジオの中にいるとすれば――」

 九十九はまるで数藤のことを見下すかのように視線を落とすと、引導を渡すとばかりに事実を突きつけてきた。

「あんたしかいねぇんだよ……数藤学教授様」
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