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第2問 虚無の石櫃【出題編】

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【5】

 例のごとくシンキングタイムが始まり、そして藤木が音楽に合わせて踊り始めた。おそらく、シンキングタイムが終了したのち、休憩時間を挟んでから解答という形になるのだろう。

「それで――肝心の犯人って分かったのか?」

 口火を切ったのは長谷川だった。シンキングタイム中の相談に関しては特に禁止されておらず、第1問についても、その話し合いのほとんどがシンキングタイム中に行われた。しかしながら、九十九は少しばかり思うところがあった。もはや、再現映像からの情報だけで、誰が犯人なのかは明白だった。けれども決定打に欠ける。状況的な証拠を並べ立てても、それが明確な証拠とならなければ意味がない。だからこそ、ここは手の内を犯人に見せたくなかった。

「それに関しては、今のところノーコメントとさせてもらう。今は言えない」

 犯人から決定的なボロを引き出すためにも、この場で犯人についての言及は避けておきたい。無論、過半数以上の正解者が必要なのだから、いずれは答えをみんなに伝える必要がある。ただ、わざわざ犯人がいる場で声を大にして伝える必要はないだろう。

「ってか、どうやって牧村が殺されたかも分かってないんだけど――」

「それについても後回しだ。今は黙って、あいつの踊りでも眺めていようぜ」

 凛の言葉にそう返すと、藤木の滑稽な踊りへと視線を移す。すると、ここぞとばかりに数藤が口を開いた。

「もったいぶったような言い草だが、本当は答えになんてたどり着いていないんじゃないか? 私はもう全ての答えが分かっているがね」

 相変わらず嫌味ったらしい男である。思わず「黙っとけよボケ」と呟く。シンキングタイム中に流れる音楽に紛れたが、悪いものというものは、なぜか人に伝わってしまうものだ。表情を強張らせた数藤が「今、なんと言った?」と問うてくる。あえて全力で無視してやった。

 実質的な主導権を握っている九十九に合わせてか、今回のシンキングタイムは実に静かなまま進行していった。もちろん、まだフリップに答えを書く者はいない。過半数以上の正解者を出さねば、解答者のうちの誰かが降板になるのだ。慎重になって当然であろう。しばらくするとBGMが止まる。

「さぁ、シンキングタイムは終了とさせていただきます! 果たして第2問目の犯人は誰なのでしょうか? 良いところですが一旦、コマーシャルです!」
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