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第2問 虚無の石櫃【出題編】

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 その場でインタビューを打ち切ったかのごとく、画面が暗転し、そして白文字のテロップが浮かび上がる。その力強いメッセージには、思わず小野寺も苦笑いを浮かべた。

 ――働かずに食うメシは美味いか?

 何事もなかったかのごとく、画面が明るくなり、今度は黄色のシャツを着た上半身が映った。今回の事件に携わっている人間で、まだインタビューを受けていないのは、言い出しっぺの山田と寝坊教授の2人だけだ。

 ――山田さんのインタビュー。

 黄色のシャツは山田らしい。山男の次に映ったからか、妙にひょろひょろに見えてしまうのは気のせいだろうか。面倒なことは人任せで、美味しいところだけ持っていく。そんな印象が先行してしまっているせいで、上半身しか映っていないのにチャラチャラしたイメージを受ける。印象というものは、きっと人が思っている以上に強く影響を及ぼすようだ。

 ――そのシャツ、山田さんが作ろうって言い出したんですよね?

 率直でストレートな質問。実際のところ何もしていない山田は、このテロップに対してどのように答えるのか。

『あ、そうっすよ。発案者は自分っす。まぁ、思ったより野暮ったいデザインになっちゃいましたけど』

 自分は何もしないのに、出来上がったもののクオリティーに難癖をつけるとは、中々に度胸が据わっている。ただ、このようなタイプの人間、クラスに1人はいたような気もする。

 ――山田さんは、シャツを作る際、どの部分に携わったのですか?

 あえて分かっていながら聞く。質問分のテロップには、その種の悪戯心のようなものが含まれていた。

『いや、だから発案者ですって。デザインを1号達とか地味子にお願いしたり、発注は寝坊教授にお願いしたり、本当大変だったんすから! その甲斐もあって、ゼミに一体感が出たっていうか』

 ――牧村さんが殺害されたきっかけになった旅行も、山田さんが言い出しっぺなんですよね? それもまた、他力本願ですか?

 明らかに質問の量が、他の人達と違う。しかも、山田を小馬鹿にするような内容ばかりのように思える。

『他力本願というか、俺がみんなに指示を出したんすよ。俺、多分だけどリーダー的な素質が……』

 まだ山田が喋っている途中だというのに、画面が暗転する。おそらく、山田が長々と喋ったものだから、カットされてしまったのであろう。

 暗転した画面が元に戻ると、今度はカッターシャツにネクタイ――そしてその上に白衣を羽織っている上半身が映った。当然だが、着ているシャツはゼミのシャツではないらしい。
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