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第2問 虚無の石櫃【出題編】

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 ぱっと見た感じでは、単に発泡スチロールのカスが飛び散っただけのように見えるが、その散らかり方に妙な不自然さがある。それが果たして何かを再現しているものなのか否か。それを知るには【質問権】を行使しなければならない。まぁ、数藤は人数から除くとして、九十九達が行使できる【質問権】は6人分の6回。藤木から質問そのものが却下されてしまう可能性を考慮しても、充分すぎる弾数がある。もっとも、それぞれの【質問権】に対して答えを知ることができるのは行使した本人のみ。もし6人の中に犯人が混じっているとして、都合の悪いような情報が出てきてしまえば――きっと犯人は嘘をついてでも情報を握りつぶすだろう。

「それじゃ、こいつは【質問権】を行使して聞き出すことにしよう。他に何か――この現場を見て奇妙に思う点はねぇか?」

 独り相撲にならぬよう、あえて周囲へと意見を求める九十九。こうして、わざと主導権を握らないようにすることで、余計な疑心暗鬼が起きぬようにしなければならない。中々に面倒だ。

「現場の周りに伸縮式の梯子が転がっていたらしいけど、それは一体、誰が何のために用意したんだろうな」

 こちらから促せば、自然と意見というものは出てくるものだ。控えめな人間は、目立つ人間が積極的に意見するから引っ込むのであって、今の長谷川のように、意見を引っ張り出せるような環境さえ作ってやれば、自らの意見を口にしてくれるのだ。

「普通に考えれば【虚無の石櫃】にのぼろうとしたんじゃないですかね? 20メートルの長さがある伸縮式の梯子なんて見たことありませんけど」

 現場に転がっていた伸縮式の梯子。どう考えても、一般的な伸縮式の梯子で20メートルもの長さがあるものが流通しているとは思えない。避難用の縄梯子ならば、まだ分からなくはないが、少なくとも【虚無の石櫃】の高さに対して、伸縮式の梯子では歯が立たないであろう。

「だとして、どうやってここまで梯子を運んだ? 被害者である牧村が、そもそもここまでどのような手段でやってきたのかは不明だが、例えばタクシーなんかを使っていた場合、伸縮式の梯子を持っていれば嫌でも目立つ。その辺りのことも【質問権】で確かめておくべきだと思うんだ」

 流れで考えるのであれば、何かしらの理由で被害者である牧村が【虚無の石櫃】にのぼろうとした――そのために、伸縮式の梯子を持ち込んだというのが自然であろう。しかし、どうにも引っかかる。
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