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第2問 虚無の石櫃【出題編】
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九十九はそんなやり取りを眺めつつ、ようやく模型のほうへと視線をやった。すでに現時点で、解せない点が出てきている。主導権を握りたくはないが、正解者を過半数以上出すためには、説得力のある推論が必要だ。馴れ合いたくはないが、他の人間とコミニケーションを取りつつ進めたほうが、色々な観点から見ても効率が良いだろう。
「さて……」
模型を眺めるだけのアカリの隣に立つと、遺体を再現したという黒いマネキンへと視線を移す九十九。マネキンは台座の上に座り、壁に体を預ける形になっている。この時点で、ある可能性が――もっともあり得るだろう可能性が除外される。
「あの、ちょっと思ったんですけど――」
ふと背後から声がした。振り返ると、中途半端な形で挙手をする柚木の姿があった。再び模型のほうへと視線を戻し「なんだ?」と問う九十九。マネキンの近くに落ちていた携帯電話に手を伸ばす。
「確か被害者の死因って、後頭部を強打したことによる脳挫傷ですよね? 私、それを聞いて、てっきり被害者は【虚無の石櫃】の上部から、中に向かって落ちたものだとばかり思っていたんですけど、どう見てもそれ――頭から落下したような姿勢ではないですよね?」
このような形が好ましい。全ての疑問を九十九が挙げてしまうと、どうしても主導権を握りがちになってしまうから、このように多方面から意見を出してもらったほうがありがたい。柚木が口にした疑問は、まさしく真っ先に九十九が抱いた疑問のひとつだった。
「もし仮に【虚無の石櫃】の上から落ちたのであれば、頭からいってるだろうな。死因も後頭部強打による脳挫傷なわけだし。だが、このマネキンはご覧の通り、台座の床に腰を降ろして、石櫃の壁に体を預けるような形になっている。絶対にあり得ないとは言わねぇが、器用に後頭部を強打してから、この姿勢で絶命するなんてことは、まず考えられねぇだろうな。つまり――少なくとも、被害者は【虚無の石櫃】のてっぺんから中に向かって落ちたわけじゃねぇってことになる」
遺体として再現された黒いマネキン。それが否定しているのは、被害者の転落死。もし転落死ならば、マネキンのような綺麗な形にはならないだろう。それに――。
「それに、もしこの形で転落したのであれば、他に外傷があるはずだ。もしも、尻餅をつく形で台座に激突したのであれば、腰の骨くらいやっていてもおかしくはない」
柚木の発言が、自然と他の人間に発言権を与える。マネキンを眺めつつ、長谷川が呟き落とす。それを聞いていた藤木がマイクを手にした。
「ちなみに補足になりますが、遺体に残されていた外傷は後頭部のみでした。あ、これはサービス。心配せずとも【質問権】の行使にはあたりませんので」
「さて……」
模型を眺めるだけのアカリの隣に立つと、遺体を再現したという黒いマネキンへと視線を移す九十九。マネキンは台座の上に座り、壁に体を預ける形になっている。この時点で、ある可能性が――もっともあり得るだろう可能性が除外される。
「あの、ちょっと思ったんですけど――」
ふと背後から声がした。振り返ると、中途半端な形で挙手をする柚木の姿があった。再び模型のほうへと視線を戻し「なんだ?」と問う九十九。マネキンの近くに落ちていた携帯電話に手を伸ばす。
「確か被害者の死因って、後頭部を強打したことによる脳挫傷ですよね? 私、それを聞いて、てっきり被害者は【虚無の石櫃】の上部から、中に向かって落ちたものだとばかり思っていたんですけど、どう見てもそれ――頭から落下したような姿勢ではないですよね?」
このような形が好ましい。全ての疑問を九十九が挙げてしまうと、どうしても主導権を握りがちになってしまうから、このように多方面から意見を出してもらったほうがありがたい。柚木が口にした疑問は、まさしく真っ先に九十九が抱いた疑問のひとつだった。
「もし仮に【虚無の石櫃】の上から落ちたのであれば、頭からいってるだろうな。死因も後頭部強打による脳挫傷なわけだし。だが、このマネキンはご覧の通り、台座の床に腰を降ろして、石櫃の壁に体を預けるような形になっている。絶対にあり得ないとは言わねぇが、器用に後頭部を強打してから、この姿勢で絶命するなんてことは、まず考えられねぇだろうな。つまり――少なくとも、被害者は【虚無の石櫃】のてっぺんから中に向かって落ちたわけじゃねぇってことになる」
遺体として再現された黒いマネキン。それが否定しているのは、被害者の転落死。もし転落死ならば、マネキンのような綺麗な形にはならないだろう。それに――。
「それに、もしこの形で転落したのであれば、他に外傷があるはずだ。もしも、尻餅をつく形で台座に激突したのであれば、腰の骨くらいやっていてもおかしくはない」
柚木の発言が、自然と他の人間に発言権を与える。マネキンを眺めつつ、長谷川が呟き落とす。それを聞いていた藤木がマイクを手にした。
「ちなみに補足になりますが、遺体に残されていた外傷は後頭部のみでした。あ、これはサービス。心配せずとも【質問権】の行使にはあたりませんので」
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