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第2問 虚無の石櫃【出題編】

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「何か勘違いしているみたいだから言わせてもらうが――仮に自分以外の人間が全て犯人だったとしたらどうする? それでも仲良く力を合わせたほうがいいと?」

 どちらかといえば、九十九も数藤寄りの考え方である。しかしながら、このクイズ番組のルールが明らかになってきた以上、どうやら単独で動くのは得策ではないらしい。アカリに変わって口を開く九十九。

「もしそうであっても、目の前の問題の犯人でないのであれば利用価値はあるんじゃねぇか? 正解者が過半数に満たなければ、解答者の誰かがランダムで降板だ。それを避けるために、一時的でも利用できるもんは利用する。頭ごなしに周囲を遠ざけるのは損しかしねぇよ。使えるもんは使わねぇと」

 スタンスは崩さない。この状況で仲良しこよしをする必要がないことは九十九も分かっている。特に、特定の人間とだけ接点を持つような真似はしたくない。そのような行為はいずれ派閥問題へと発展するのが目に見えている。ただ、所詮人間なんてものは不完全であり、誰にでも平等に接するなんてことは不可能に近い。それならば、誰とも関わらない――数藤が出した結論のほうが正しいだろう。けれども、このクイズ番組のシステム上、過半数以上の正解者を叩き出す土台は必要だ。その辺りの考え方が数藤とは違う。

「ふん、馬鹿とハサミはなんとやら――だな。まぁ、勝手にやるがいい。そうしてくれれば、私は何の苦労をすることなく、この状況を楽しめそうだ」

 九十九自身、自分が斜に構えた人間であることくらい自覚している。しかしながら、そんな九十九から見ても、数藤という人物は異質だった。どこか似通っている部分もあるのだが、しかし根本的に何かが違う。

「よくもそんなことを今言えるな――」

 数藤の振る舞いに腹を立てたのであろう。長谷川が一歩前に踏み出すが、九十九はそれを手で制した。

「今、ここで争ったところで何の得にもならねぇ。好きにやらせてやればいい。気にすんな」

 その一言で、おそらく数藤は完全に孤立した。しかしながら、それは本人が望んだ孤立である。このような状況になったことに対して後悔などしていないだろうし、それこそ清々としているくらいなのであろう。ただでさえアカリが解答権を失ってしまっている今、解答できる人間を手放すのは惜しいが、本人が孤立を望んだのだから仕方がない。それに、彼の性格では、早かれ遅かれ孤立していたことだろう。人として決定的な欠陥のようなものがあるような気がする。
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