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第2問 虚無の石櫃【出題編】

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 ドローンが【虚無の石櫃】とやらの真上を旋回し、そしてそのまま空洞部分へと突入する。コンクリートに囲まれた冷たい空間の奥へとドローンは降りて行くが、下に向かえば向かうほど太陽の光が届かず、底のほうは真っ暗だった。見た感じ、石櫃の中に出入りするには、上空からしか手段がないようだ。石櫃の外に出たドローンが旋回しながら降下するが、どうやら【虚無の石櫃】とやらには出入り口となるようなものがつけられていないらしい。

『当時、大学生だった牧村さんという方が、この【虚無の石櫃】の底で遺体となって発見されました。事件当日より行方が分からなくなっていた彼を、同じゼミの仲間が探したすえに発見されたそうです。まさしく、牧村さんにとって【虚無の石櫃】は棺桶となってしまったのです。事件の起きた日が平日のど真ん中ということもあり、事件を目撃した人もいなかったようです』

 前回は偽名を使っていたのであるが、今回は固有名詞を使うつもりなのだろうか。少なくとも、被害者であろう牧村というのは、偽名ではないような気がする。

 ここまでは言わばプロローグといったところだろうか。暗転した画面を眺めながら、出雲がぽつりと漏らす。

「芸術ってのは良く分からんなぁ。あんなものを高原のど真ん中に建てて、どこが芸術なんだか……。あれだけの高さのものを高原に建てるとなると、色々と大変だったろうに」

 ドローンで見た限り【虚無の石櫃】とやらは、かなりの高さの建造物のようだ。周囲には何もないことであるし、高さは20メートルあるらしい。決して軽くはないであろうコンクリートの塊を、人里から離れた高原まで運ぶ時点で大変だろうし、それを建てるとなると、クレーン車の1台や2台ではきかないであろう。確かに、芸術というものは良く分からない。

「それに関しては同意見ですね。おかげさまで、もう奇妙なことになってきましたよ――」

 事件の再現映像は、おそらくまだ序盤の段階だ。しかし、この時点で明らかになっている情報を統合して考えるに、すでに不可解な謎が浮かび上がっていた。

「牧村とやらの遺体は【虚無の石櫃】の底で見つかった。そして【虚無の石櫃】とやらは高さが20メートルもある。しかも、出入り口らしきものは見当たらない。ならばなぜ、遺体は【虚無の石櫃】の中にあったのか――ということだろ?」

 小野寺の言葉を代弁するかのように、出雲が呟いた。それに対して頷く小野寺。

「その通りです。【虚無の石櫃】は高さが20メートル。出入り口はてっぺんに空いている部分のみです。当然ながら【虚無の石櫃】の周囲に、それよりも高い建造物はありません。それなのに遺体は【虚無の石櫃】の底で見つかった。おそらく、この事件にも犯人がいるでしょうが、一体どのようにして犯人は【虚無の石櫃】の中に遺体を放り込んだのでしょうか?」
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