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第2問 虚無の石櫃【プロローグ】

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 こんなことをする理由。藤木の単独かもしれないし、企てた人間は藤木の他にいるのかもしれない。ただ、その目的が釈然としない。

 過去に罪を犯した人間を交えてクイズを行い、罪人を断罪する――。まず、それが目的のひとつであると考えていいだろう。しかし、それをわざわざクイズ番組に仕立て上げる必要はない。どこまでの範囲なのか分からないが、それを視聴者に向けて発信することに意義があるのだろうか。

 なによりも解せないのは、小野寺達の立場である。小野寺達がやるべきことは、たまにテレビに映るクイズ番組を眺めるだけ。そんな役割の人間を、わざわざ軟禁してまで用意する必要があるのか。それに、あれだけの大々的なクイズ番組をやっておきながら、視聴者が実は出雲と小野寺だけ――なんてことはないだろう。考えたくないことであるが、他にも同じような立場の人達がいるのかもしれない。しかし、どうしてわざわざ軟禁しなければならないのか。ネットにアップすれば、これだけ残酷な内容の番組だ。放っておいても視聴者がつくことだろう。すなわち、そもそも軟禁なんて手段を取らずとも、視聴者を集めることはできるはずだ。

「それにしても、誰が司馬のやつを」

 気持ちの悪い感じで酔いが覚めてしまったのであろう。それを払拭するかのごとく酒をあおると、出雲は口元を袖で拭った。

「彼が降板……いいえ、殺害されたのは番組が終わってから、部屋で発見されるまでの間です。あっちの空間にどれだけの人がいるか掌握できていないし、外からの出入りがあるかどうかは分かりませんが、ひとつだけはっきり言えることがあります」

 小野寺がそこで言葉を区切ると、出雲は「それはなんだ?」と問うてくる。はっきりしていること――というか、当たり前のことを言うだけなのだが、出雲に真剣な表情をされてしまうと、なんとなく言いにくい。それでも、言い出してしまった手前、引っ込みがつかなくなる。

「僕達は間違いなく犯人ではないです」

 一呼吸おいて「そんなの当たり前だろうがぁ」と、後ろにのけぞるリアクションをとる出雲。歳を召しているから仕方のないことなのかもしれないが、リアクションが古臭い。

 クイズ番組が終わってから今の今まで酒を呑んでいた小野寺達。そもそもわけの分からない場所に軟禁されているのだから、司馬を殺害できるわけがない。やはり多少なりとも酒が入っているせいか、それとも無意識に妙な空気を払拭したかったのか。小野寺なりの冗談のつもりだったのだが、出雲は真に受けてしまったらしい。

 それにしても、これらを企んだ人物の目的は一体何なのか。問いかけようとしても、ブラウン管は沈黙したままなのであった――。
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