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第2問 虚無の石櫃【プロローグ】
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『それでは、早速ですが司馬龍平さんの控え室へと向かって参りましょう』
カメラに向かってそう言うと、踵を返す藤木。彼が背を向けて歩き出すと、それに合わせてカメラの画面が揺れた。それを見て、小野寺はあることに気づく。
「あれ?」
それがごく自然すぎて思わず声が出てしまった。しかしながら、スタジオで孤軍奮闘していた藤木と、今現在テレビに映っている藤木には、決定的な違いがある。藤木自身がどうのこうのというのではなく、その環境に違いがあるんだ。
「うーん? どうしたんだぁ? 小野寺ぁ」
すっかり泥酔してしまっている出雲は、ある種の開き直りなのか実に楽しそうに酒を飲み続ける。急にテレビが点いたことも、酒の肴程度にしか思っていないのかもしれない。
「いや、おかしんです。この構図って――司会の彼だけじゃ撮影できないでしょ?」
藤木がカメラに向かって背を向けた光景。彼が歩いたのに合わせて揺れた画面。これは……藤木1人では撮影できないものだ。三脚などを立ててカメラを固定していたとしても、しかし藤木の後をついて歩くという芸当は固定されたカメラには不可能だろう。
「いや、三脚かなんかで固定してるんじゃないかぁ?」
その構図がなぜおかしいのか。その根本的なところは酔っ払っていても理解しているらしい。やや呂律が回らなくなっているにも関わらず、まだ正常な思考をする部分は残っているようだ。
「でも、三脚に固定したカメラが、藤木の後をついて歩くなんてことはできないでしょう? カメラから藤木が離れているのに画面が揺れた――この事実から分かることはひとつだけ。つまり、カメラマンが同行しているんです」
そう、クイズ番組の際はずっと固定された画面のままであったが、今のカメラは固定されたものではなく、誰かが手にしているのだ。カメラから離れて背を向けている時点で、藤木が自撮りをしている可能性はゼロだ。
「ちょっと待てぇ、小野寺ぁ。だとしたら、どうしてクイズ番組中にそのカメラマンを使わんのだぁ?」
今現在の藤木にはカメラマンがいる。それが何者なのかは分からないが、しかしクイズ番組中はずっとカメラが固定されており、藤木1人で番組を回していた。カメラマンがいるならば、最初からクイズ番組でも使えばいいのにだ。この問題に関して、小野寺の中でひとつの可能性が浮かび上がっていた。
「――使いたくても使えなかったんじゃないでしょか」
カメラに向かってそう言うと、踵を返す藤木。彼が背を向けて歩き出すと、それに合わせてカメラの画面が揺れた。それを見て、小野寺はあることに気づく。
「あれ?」
それがごく自然すぎて思わず声が出てしまった。しかしながら、スタジオで孤軍奮闘していた藤木と、今現在テレビに映っている藤木には、決定的な違いがある。藤木自身がどうのこうのというのではなく、その環境に違いがあるんだ。
「うーん? どうしたんだぁ? 小野寺ぁ」
すっかり泥酔してしまっている出雲は、ある種の開き直りなのか実に楽しそうに酒を飲み続ける。急にテレビが点いたことも、酒の肴程度にしか思っていないのかもしれない。
「いや、おかしんです。この構図って――司会の彼だけじゃ撮影できないでしょ?」
藤木がカメラに向かって背を向けた光景。彼が歩いたのに合わせて揺れた画面。これは……藤木1人では撮影できないものだ。三脚などを立ててカメラを固定していたとしても、しかし藤木の後をついて歩くという芸当は固定されたカメラには不可能だろう。
「いや、三脚かなんかで固定してるんじゃないかぁ?」
その構図がなぜおかしいのか。その根本的なところは酔っ払っていても理解しているらしい。やや呂律が回らなくなっているにも関わらず、まだ正常な思考をする部分は残っているようだ。
「でも、三脚に固定したカメラが、藤木の後をついて歩くなんてことはできないでしょう? カメラから藤木が離れているのに画面が揺れた――この事実から分かることはひとつだけ。つまり、カメラマンが同行しているんです」
そう、クイズ番組の際はずっと固定された画面のままであったが、今のカメラは固定されたものではなく、誰かが手にしているのだ。カメラから離れて背を向けている時点で、藤木が自撮りをしている可能性はゼロだ。
「ちょっと待てぇ、小野寺ぁ。だとしたら、どうしてクイズ番組中にそのカメラマンを使わんのだぁ?」
今現在の藤木にはカメラマンがいる。それが何者なのかは分からないが、しかしクイズ番組中はずっとカメラが固定されており、藤木1人で番組を回していた。カメラマンがいるならば、最初からクイズ番組でも使えばいいのにだ。この問題に関して、小野寺の中でひとつの可能性が浮かび上がっていた。
「――使いたくても使えなかったんじゃないでしょか」
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