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第1問 理不尽な目覚め【エピローグ】
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「おい! 何があった? 返事をしてくれ!」
男の悲鳴が聞こえてきた時点で明らかであるが、そこまで楽屋の壁は厚くないらしい。ややくぐもってはいるが、廊下を介して他の楽屋にいるであろう人間の声が聞こえるのだから。まず、このような状況で数藤が声を張り上げるなんてことはないだろうし、声質から考えても長谷川の声だろう。
「それで返事をしてくれたら苦労はねぇよ――」
扉の向こう側へと発言したつもりだったが、ある程度の声量がないと、さすがに廊下を介したさらに向こう側には聞こえないらしい。あっさりとスルーされてしまった。改めて声を張り上げる気にもなれず、扉から少し離れる九十九。ふと、その時のことだった。扉の開閉音が聞こえたと思ったら、廊下を何者かが走る音が聞こえ、もう一度扉を開ける音が続いたのち、締めくくるかのように閉まる音が辺りに響いた。余韻を残すかのように辺りに漂ったのは静寂。ただただ静寂。
「あの……一体何が起きたんでしょう?」
辺りはしんと静まりかえり、それが耳鳴りへと変わった。気が強そうな面はあるものの、アカリは不安げな表情を浮かべたままだった。
扉のほうから、がちゃり――と音がした。九十九とアカリは揃って扉のほうへと視線をやる。見た感じ、扉そのものに異常はなし。となると、その音の正体は……。
ドアノブに手をかけて思い切り回してみると――ついさっきまで鍵のかかっていた扉があっさりと開いた。九十九は顔を廊下に出して辺りの様子を伺う。どういうわけだか楽屋のロックが解除されたようだ。ただ勝手に外にいた場合、解答権を失うというルールがある以上、迂闊に楽屋から外に出るわけにはいかないだろう。
どうしたものかと考えていると、廊下に面する扉のひとつが開く。もっともスタジオに近いふたつの扉のうちのひとつ。そこから姿を現したのは藤木だった。格好は番組に出た時と全く同じ。異なる点があるとすれば、あからさまにテンションが低いのと、マイクを持っていないことくらいか。そんな藤木は手を叩いて注目を集める。
「はい、お休みのところすいません。司馬龍平さんが降板されましたので、みなさんで彼のお見送りをお願いします。なお、この時間に限ってはペナルティーの対象にはならないことにいたします。ただし、手短にお願いします。それでは、よろしくお願いしますね」
実に気だるそうに目をこする藤木。番組のほうに全力を注いだせいで、精根尽き果てているといった感じか。その証拠に、告げることを告げてしまうと、また藤木は扉の向こうに引っ込んでしまった。
男の悲鳴が聞こえてきた時点で明らかであるが、そこまで楽屋の壁は厚くないらしい。ややくぐもってはいるが、廊下を介して他の楽屋にいるであろう人間の声が聞こえるのだから。まず、このような状況で数藤が声を張り上げるなんてことはないだろうし、声質から考えても長谷川の声だろう。
「それで返事をしてくれたら苦労はねぇよ――」
扉の向こう側へと発言したつもりだったが、ある程度の声量がないと、さすがに廊下を介したさらに向こう側には聞こえないらしい。あっさりとスルーされてしまった。改めて声を張り上げる気にもなれず、扉から少し離れる九十九。ふと、その時のことだった。扉の開閉音が聞こえたと思ったら、廊下を何者かが走る音が聞こえ、もう一度扉を開ける音が続いたのち、締めくくるかのように閉まる音が辺りに響いた。余韻を残すかのように辺りに漂ったのは静寂。ただただ静寂。
「あの……一体何が起きたんでしょう?」
辺りはしんと静まりかえり、それが耳鳴りへと変わった。気が強そうな面はあるものの、アカリは不安げな表情を浮かべたままだった。
扉のほうから、がちゃり――と音がした。九十九とアカリは揃って扉のほうへと視線をやる。見た感じ、扉そのものに異常はなし。となると、その音の正体は……。
ドアノブに手をかけて思い切り回してみると――ついさっきまで鍵のかかっていた扉があっさりと開いた。九十九は顔を廊下に出して辺りの様子を伺う。どういうわけだか楽屋のロックが解除されたようだ。ただ勝手に外にいた場合、解答権を失うというルールがある以上、迂闊に楽屋から外に出るわけにはいかないだろう。
どうしたものかと考えていると、廊下に面する扉のひとつが開く。もっともスタジオに近いふたつの扉のうちのひとつ。そこから姿を現したのは藤木だった。格好は番組に出た時と全く同じ。異なる点があるとすれば、あからさまにテンションが低いのと、マイクを持っていないことくらいか。そんな藤木は手を叩いて注目を集める。
「はい、お休みのところすいません。司馬龍平さんが降板されましたので、みなさんで彼のお見送りをお願いします。なお、この時間に限ってはペナルティーの対象にはならないことにいたします。ただし、手短にお願いします。それでは、よろしくお願いしますね」
実に気だるそうに目をこする藤木。番組のほうに全力を注いだせいで、精根尽き果てているといった感じか。その証拠に、告げることを告げてしまうと、また藤木は扉の向こうに引っ込んでしまった。
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