クイズ 誰がやったのでSHOW

鬼霧宗作

文字の大きさ
上 下
103 / 506
第1問 理不尽な目覚め【エピローグ】

10

しおりを挟む
 なんとも女というものは面倒な生き物である。手を出すなと言ってみたり、そっけない態度で返せば、それはそれで面白くなかったりと、どうしていいのか分からないリアクションを見せることがある。嫌よ嫌よも好きのうち――などという、実に矛盾していて理解不能な言葉があるくらいだから、きっと九十九が思っている以上に複雑な構造をしているのであろう。

 あえてアカリの言葉に反応せず、麺をほぐすと一気にすする。さすがにあらかじめ用意されていた握り飯を食べる気にはなれなかった。まるでわけが分からない状態で、ポンと用意されていた得体のしれない食べ物。それを口にした奴はいるのだろうか。案外、アカリ辺りは何の警戒もせずに口にしていそうであるが。

 ある程度麺をかき込むと、今度はスープを飲む。はっきり言って体には悪いのであろうが、このジャンクな感じと、あえて体に悪いことをしているという背徳感のようなものが最高のスパイスである。

 自分でも自覚しないまま、よほど美味そうに食べていたのであろう。どこかで腹の虫が鳴いた。もちろん、エサを与えている最中の九十九の腹の虫が鳴くわけがない。アカリのほうに視線をやると、やはり曲がりなりにも女なのであろう。恥じるかのようにうつむいた。

「仕方ねぇな――こいつをやるよ」

 テーブルの上に置かれた食糧の中から、おそらく自分は食べないであろうものをピックアップして、アカリのほうへと放り投げる。とりあえずカンパン辺りはまず食べることはない。やや大きめの缶の中には、さぞ硬いパンがごっそりと入っていることであろう。

「あ、ありがとう……」

 腹が減ってはなんとやら。その様子から察するに、さすがに楽屋に用意されていた握り飯には手をつけなかったか。アカリがしゃがみ込み、足元に転がった缶を拾い上げようとした時のことだった。

 バン――という扉が開け放たれるような音が扉の向こう側から聞こえると、続いて何やら揉めるような音が飛んでくる。思わず扉に視線をやる九十九とアカリ。不穏なものを感じた九十九が立ち上がった瞬間、耳をつんざくような悲鳴が聞こえた。男が腹の底から出したような悲鳴。今度は扉が閉じるような音が鳴り響き、揉み合うような音と男の悲鳴が遮断された。

 扉に駆け寄るとドアノブを回す……が、アカリがやった時と同じようにロックがかかっている。九十九より背の低いアカリが、不安げな表情で九十九のことを見上げていた。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

ミノタウロスの森とアリアドネの嘘

鬼霧宗作
ミステリー
過去の記録、過去の記憶、過去の事実。  新聞社で働く彼女の元に、ある時8ミリのビデオテープが届いた。再生してみると、それは地元で有名なミノタウロスの森と呼ばれる場所で撮影されたものらしく――それは次第に、スプラッター映画顔負けの惨殺映像へと変貌を遂げる。  現在と過去をつなぐのは8ミリのビデオテープのみ。  過去の謎を、現代でなぞりながらたどり着く答えとは――。  ――アリアドネは嘘をつく。 (過去に別サイトにて掲載していた【拝啓、15年前より】という作品を、時代背景や登場人物などを一新してフルリメイクしました)

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

バージン・クライシス

アーケロン
ミステリー
友人たちと平穏な学園生活を送っていた女子高生が、密かに人身売買裏サイトのオークションに出展され、四千万の値がつけられてしまった。可憐な美少女バージンをめぐって繰り広げられる、熾烈で仁義なきバージン争奪戦!

病弱な愛人の世話をしろと夫が言ってきたので逃げます

音爽(ネソウ)
恋愛
子が成せないまま結婚して5年後が過ぎた。 二人だけの人生でも良いと思い始めていた頃、夫が愛人を連れて帰ってきた……

消された過去と消えた宝石

志波 連
ミステリー
大富豪斎藤雅也のコレクション、ピンクダイヤモンドのペンダント『女神の涙』が消えた。 刑事伊藤大吉と藤田建造は、現場検証を行うが手掛かりは出てこなかった。   後妻の小夜子は、心臓病により車椅子生活となった当主をよく支え、二人の仲は良い。 宝石コレクションの隠し場所は使用人たちも知らず、知っているのは当主と妻の小夜子だけ。 しかし夫の体を慮った妻は、この一年一度も外出をしていない事は確認できている。 しかも事件当日の朝、日課だったコレクションの確認を行った雅也によって、宝石はあったと証言されている。 最後の確認から盗難までの間に人の出入りは無く、使用人たちも徹底的に調べられたが何も出てこない。  消えた宝石はどこに? 手掛かりを掴めないまま街を彷徨っていた伊藤刑事は、偶然立ち寄った画廊で衝撃的な事実を発見し、斬新な仮説を立てる。 他サイトにも掲載しています。 R15は保険です。 表紙は写真ACの作品を使用しています。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

処理中です...