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第1問 理不尽な目覚め【エピローグ】

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「ケンさんはここで待っていてください。僕が適当に食べ物を持ってきますよ」

 食糧庫のほうへと向かおうとする出雲に声をかけると立ち上がる小野寺。さきほどはざっと中を見渡しただけであるし、どんなものが食糧庫にあるのか全て把握しているわけではない。別に出雲のことを気遣ったわけではなく、単純に食糧庫の中を漁ってみたかった。わけも分からずに監禁されて、これまたわけの分からないクイズ番組を観る羽目になったのだ。これくらいの気分転換は許されるだろう。気晴らしにショッピングに行くようなものである。

「いやいや、俺が行ってくる。しっかり食糧庫の中を調べたわけじゃないしよ。ちょっとじっくり吟味してぇんだ」

 出雲が食糧庫に向かいたがるのは、どうやら理屈的に小野寺と同じらしい。一応、窓はあるものの、その外はぞっとするほどの高さであるし、監禁されているということが念頭にあるからなのか、どうにも部屋の中にいても息が詰まる。この部屋から離れたいと思うのは、ごく当たり前のことだろう。

「ケンさん。だったら一緒に……」

「お前、食糧庫の狭さを見ただろ? 絶世の美女とご一緒にならば悪くないが、お前と一緒にあそこで食材漁りはちょっとな――」

 それはこちらの台詞である。確かに、食糧庫はそこまで広くなかったし、出雲の気持ちも分からなくはない。小野寺だって、狭い空間に出雲と一緒というのは、なんとなく本能的に嫌だ。それに、きっとこれ以上はなにを言っても無駄である。年齢のせいか出雲は妙に頑固なところがあり、こうと言い出したら絶対に譲らない。ここで小野寺が反論したところで押し問答にしかならず、最終的に出雲のゲンコツが飛んできて終わりであろう。暴力反対。

「分かりましたよ。記念すべきここでの最初の食事は――ケンさんのチョイスにお任せします」

 いつもこうやって折れてやるのは自分のほうである。自分のほうが大人であるからと自らに言い聞かせるのが常であり、損な役回りだと小野寺は思っている。しかし、だからこそ出雲と小野寺のコンビは成立しているのだと思う。出雲と反りが合わず、コンビを解消していった人を小野寺は何人も知っている。自分が見放してしまったら、きっと出雲とコンビを組んでくれる人間などいないことであろう。

「任せておけ。とは言っても、レトルトかインスタントになるんだろうが」

 出雲は食糧庫のほうへと改めて向かうと、一度小野寺のほうへと振り返ってから、食糧庫の扉を開けた。所狭しと物が陳列されている中へと、出雲は姿を消す。
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