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第1問 理不尽な目覚め【解答編】
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司馬からすれば、逃げ切れると思っていたのだろう。まさか自分の犯罪がクイズとなり、出題されるなんて夢にも思っていなかっただろうし、こうして白日の下に真実が引っ張り出されてしまうことになるなんて考えもしなかったに違いない。これは、手向けだ。司馬へのせめてもの手向け。九十九はモニターと引き換えに引っ込んでしまったネオン看板を指差した。
「ほら、あれ見てみろよ――【クイズ 誰がやったのでSHOW】だ」
司馬の肩を叩いてやる。司馬はただ呆然としたまま、引っ込んでしまったネオン看板を眺める。言っている意味がまだ理解できないらしい。
「いいか? このクイズ番組は8人の中の誰かが殺人を犯していて、その犯人が誰なのか――というコンセプトで成立している。だがよ、実は藤木の野郎がそのコンセプトを語るまでは、そうとは確定できなかったんだよ。つまり【誰がやったのでSHOW】の【やった】と【殺った】がイコールで結びついたのは、藤木がそのコンセプトを説明した後からだ。一口に【やった】と言っても、色々なニュアンスがある。でも、ある人物は藤木がそのコンセプトを話す前に、俺に対してこんなことを言ったんだよ」
九十九がそこで言葉を区切ると、きっと本人も思い当たる節があったのだろう。ただでさえ真っ青な顔からさらに血の気が引いていく。小さく放たれた「まさか……」という一言は震えていた。
「お前はこう言ったんだ。【こんな人殺し探しをさせるような番組――まず倫理的にアウトだろう】ってよ。もうこの時点で、お前は【やった】の意味を【殺った】に置き換えて考えていたんだよ。実際、番組のコンセプトはその通りだったけどよ、あの時点でその思考を持つことができるのは……」
九十九は司馬の顔を下から覗き込み、そしてトドメの一言を放った。もう司馬は言わば死んでいるようなもの。九十九がやっているのは死者への冒涜――死体を蹴飛ばす行為だ。けれども、本人が望んだのだから仕方がない。存分に蹴飛ばさせてもらおう。どこまで吹き飛ぶか楽しみである。
「実際に【殺った】ことのある人間だけだと思うんだよなぁ。だから、少なくともお前は犯人側の人間かもしれないって思ったんだよ。まさか、第1問の犯人だとは思いもしなかったけどよぉ」
司馬は強く目を閉じると、大きく首を横に振った。もう正解者全員に用紙を配り終えたのであろう。藤木がスタジオの中央へと戻りながら「そういう絵になるようなやり取りは、是非番組内でやって欲しいものですねぇ」と溜め息を落とした。
「ほら、あれ見てみろよ――【クイズ 誰がやったのでSHOW】だ」
司馬の肩を叩いてやる。司馬はただ呆然としたまま、引っ込んでしまったネオン看板を眺める。言っている意味がまだ理解できないらしい。
「いいか? このクイズ番組は8人の中の誰かが殺人を犯していて、その犯人が誰なのか――というコンセプトで成立している。だがよ、実は藤木の野郎がそのコンセプトを語るまでは、そうとは確定できなかったんだよ。つまり【誰がやったのでSHOW】の【やった】と【殺った】がイコールで結びついたのは、藤木がそのコンセプトを説明した後からだ。一口に【やった】と言っても、色々なニュアンスがある。でも、ある人物は藤木がそのコンセプトを話す前に、俺に対してこんなことを言ったんだよ」
九十九がそこで言葉を区切ると、きっと本人も思い当たる節があったのだろう。ただでさえ真っ青な顔からさらに血の気が引いていく。小さく放たれた「まさか……」という一言は震えていた。
「お前はこう言ったんだ。【こんな人殺し探しをさせるような番組――まず倫理的にアウトだろう】ってよ。もうこの時点で、お前は【やった】の意味を【殺った】に置き換えて考えていたんだよ。実際、番組のコンセプトはその通りだったけどよ、あの時点でその思考を持つことができるのは……」
九十九は司馬の顔を下から覗き込み、そしてトドメの一言を放った。もう司馬は言わば死んでいるようなもの。九十九がやっているのは死者への冒涜――死体を蹴飛ばす行為だ。けれども、本人が望んだのだから仕方がない。存分に蹴飛ばさせてもらおう。どこまで吹き飛ぶか楽しみである。
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司馬は強く目を閉じると、大きく首を横に振った。もう正解者全員に用紙を配り終えたのであろう。藤木がスタジオの中央へと戻りながら「そういう絵になるようなやり取りは、是非番組内でやって欲しいものですねぇ」と溜め息を落とした。
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