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第1問 理不尽な目覚め【解答編】

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 最後はカメラに向かって手を懸命に振った藤木。BGMが止まり「はい、オッケーでーす!」と叫んだのは、ADでもなんでもない――藤木自身だった。彼だけでクイズ番組の撮影を回すことは無理があるのではないだろうか。

「はい、解答者の方々もお疲れ様でした。これにて、今回の収録は終了となりまーす。それでは、ただいまより正解者された方に用紙をお配りしまーす。それに、今現在で望むものをひとつだけ記入して、この藤木にお渡しくださーい。あ、司馬龍平さんは不正解なので、もうスタジオから外に出ていただいて結構です。15分後に楽屋の鍵が閉まりますので、それまでに、ご自身の楽屋へとお戻りください。あ、その後は次の収録が始まるまで楽屋からは出られません。これは他の方々も同様ですので、よろしくお願いしますよー」

 もうカメラは回っていないのであろう。司会をしていた時のような芝居臭い立ち振る舞いではない藤木の姿は、なんだか逆に猫をかぶっているようで気味が悪い。そんな藤木は司馬に対してスタジオからの退場を願っただけ。確かに、彼は正解していないのだから、希望するものを支給する――という対象にあたらないし、ここにいても無駄なのであろう。藤木は司馬の降板の件に関しては一切触れようとしない。

「あのさ、降板だとか卒業だとか言っていたけど、結局のところそれってなんの話なの? 降板と卒業の違いってなに?」

 九十九が口を開くよりも早く、凛が全く同じことを尋ねた。いいや、九十九だけではない。ここにいる誰もが気にしていたことであろう。藤木は用紙を配りながら口を開く。

「卒業は――文字通りこの番組からの卒業です。つまり、ここから解放されることを意味します。降板に関しては……まぁ、じきに分かるのではないでしょうか? 実際に降板となった方がいるわけですし」

 用紙を配りながら司馬のことを横目でチラリと見た藤木。おそらく、ここで犯罪者として吊るし上げられ、また周囲から犯罪者という目で見られることは、相当にストレスなのであろう。それに、どれだけの視聴者がいるのかは分からないが、第三者にまで自らの罪を知られてしまったのだ。ネットが人を殺すような世の中である。例え外に出て、警察に捕まらずとも、司馬は社会的に死んだようなものだ。九十九が思うに、降板とはそのような意味合いのことを指していると思うのだが、実際はどうなのであろうか。

 司馬はゆっくりと立ち上がると、九十九のほうへと顔を向けてきて一言だけ漏らす。

「かなり早い段階から疑っていたって――どこでそれに気づいた? それだけ、教えてくれ」
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