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第1問 理不尽な目覚め【解答編】
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ここに来てから何度か、司馬という男は右手首に視線を落としていた。その仕草がやや引っかかっていた九十九は、司馬がフリップにペンを走らせた時点で確信した。そう、左手で持ったペンを、フリップに走らせた司馬の姿を見た瞬間のこと。
「白川は再現映像の登場人物の中で、唯一の左利きだった。そして、お前もここにいる男どもの中で唯一の左利き――。これこそ、お前が白川だって証拠だよ」
隣の司馬は、もはや受け答えができる状態にないようだった。九十九の言葉はまるで届いていないかのごとく、とうとうブツブツと何かを早口で呟き始めた。
この男は人殺しである。司馬に対して、そのような視線が集中しているように思えた。もう、本人と押し問答をする必要もないだろう。彼の反応こそが物語っている。第1問の答えは彼自身であるということを。
「さて、俺が言いたいことはこれくらいだな。話を聞いて心変わりがあったやつがいれば、好きに答えを変えてもらっても構わないが――どうする?」
完膚なきまでに司馬を追い詰めたのだ。ここで答えを変更する馬鹿はいないだろう。現状のルールから考えるに、解答者の誤答はメリットがまるでないのだから。
「……いつからだ? いつから俺を疑っていた?」
ふと、真っ青な顔をした司馬が口を開いた。過去の罪を暴かれたことにより、精神的に不安定なっているのであろう。ごくごく少数ながら、犯罪者として向けられる周囲からの視線は、彼を徐々に蝕み始める。
「かなり早い段階からだよ」
司馬はまさしく顔面蒼白だった。視聴者がどれだけいるのか分からないが、その中にもし警察関係者でもいようものなら、事件は改めて捜査されることになるだろう。そうでなくとも、視聴者から警察に通報が入るに違いない。もっとも、逮捕されるためには、ここから出る必要がある。もしかすると、降板とはそのような意味合いなのだろうか。ここから解放はされるが、しかし解放された先は絶望が待っている。卒業は、罪を暴かれぬまま解放される――とか、そんなニュアンスなのかも。その辺りはまだ良く分からない。
「さぁ、そろそろ答えを出していただきましょう! 解答の変更がある方は今のうちにどうぞ!」
まだ司馬とのやり取りが決着していないというのに、それを遮る形で藤木が割り込んでくる。クイズ番組という性質上、先に解答VTRを流すわけにはいかない。司馬が認めてしまう前に答えを確定させてしまいたいのであろう。
「白川は再現映像の登場人物の中で、唯一の左利きだった。そして、お前もここにいる男どもの中で唯一の左利き――。これこそ、お前が白川だって証拠だよ」
隣の司馬は、もはや受け答えができる状態にないようだった。九十九の言葉はまるで届いていないかのごとく、とうとうブツブツと何かを早口で呟き始めた。
この男は人殺しである。司馬に対して、そのような視線が集中しているように思えた。もう、本人と押し問答をする必要もないだろう。彼の反応こそが物語っている。第1問の答えは彼自身であるということを。
「さて、俺が言いたいことはこれくらいだな。話を聞いて心変わりがあったやつがいれば、好きに答えを変えてもらっても構わないが――どうする?」
完膚なきまでに司馬を追い詰めたのだ。ここで答えを変更する馬鹿はいないだろう。現状のルールから考えるに、解答者の誤答はメリットがまるでないのだから。
「……いつからだ? いつから俺を疑っていた?」
ふと、真っ青な顔をした司馬が口を開いた。過去の罪を暴かれたことにより、精神的に不安定なっているのであろう。ごくごく少数ながら、犯罪者として向けられる周囲からの視線は、彼を徐々に蝕み始める。
「かなり早い段階からだよ」
司馬はまさしく顔面蒼白だった。視聴者がどれだけいるのか分からないが、その中にもし警察関係者でもいようものなら、事件は改めて捜査されることになるだろう。そうでなくとも、視聴者から警察に通報が入るに違いない。もっとも、逮捕されるためには、ここから出る必要がある。もしかすると、降板とはそのような意味合いなのだろうか。ここから解放はされるが、しかし解放された先は絶望が待っている。卒業は、罪を暴かれぬまま解放される――とか、そんなニュアンスなのかも。その辺りはまだ良く分からない。
「さぁ、そろそろ答えを出していただきましょう! 解答の変更がある方は今のうちにどうぞ!」
まだ司馬とのやり取りが決着していないというのに、それを遮る形で藤木が割り込んでくる。クイズ番組という性質上、先に解答VTRを流すわけにはいかない。司馬が認めてしまう前に答えを確定させてしまいたいのであろう。
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