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第1問 理不尽な目覚め【解答編】

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「遺体を川にぶち込んでさえしまえば、後は勝手に遺体が流れてくれる。犯人はそのまま自宅に向かい、そしてアリバイを作るために今度は会社に缶詰になった。遺体を遺棄する時間なんてなかった――と思わせるためにな」

 少なくとも、橋の上から突き落とされたような目立った外傷のなかった遺体。それゆえに、橋の上から突き落とされたという可能性が消え、ならば犯人はどうやって渓谷を降りたのか――という問題へとすり替わってしまった。渓谷を降りるとなると、それなりに時間がかかる。その間、長くても5分程度しか空白の時間がない白川は、自然とアリバイの観点から犯人ではないと断定される。おそらく、これが白川の思い描いた構図なのであろう。犯行を分割することによりアリバイを確保し、巧妙に犯行をやってのけたのだ。

 九十九の言葉に、スタジオ中に柏手を打つ音が響いた。それは徐々に間隔を狭めていき、疎らな拍手へと変わる。音のでどころは、九十九の隣だった。

「なるほど、確かにその考え方ならば、必然的に白川が犯人ということになる。川の下流方面へと帰った青野と赤間には、黒井の遺体を川に流すことができない。仮にできたとしても、遺体はキャンプ場より下流で発見されたはずだ。それに、青野と赤間が共犯でもない限り、お互いの目もあるから遺体の遺棄はできない。いや、そもそもそ軽自動車に遺体を隠すこと自体が難しいか。よって、上流へと向かい、しかも帰路の道中はずっと1人で、くわえて遺体を隠すには充分な大きさの車を所持していた白川こそが犯人ということになる――。実に整合性のある話だ」

 やや声を大にして、スタジオの宙に向かって叫ぶは司馬だ。先ほどまでの様子と打って変わり、九十九達の推測を受け入れる気になったらしい。下手に白川のことを庇うのをやめたのであろう。ただ、その態度から察するに、まだ諦めてはいないようだ。

「さて、確かに白川が犯人なのかもしれない。でも、白川がこの中にいる誰なのか――ということは証明されていない。つまり、散々講釈を垂れてくれた君が白川本人である可能性もあるわけだ。いや、君だけじゃなくて、この場にいる男性は、誰でも白川の可能性があるんだよ。それなのに、どうして俺が犯人ということになる? もし、俺を犯人扱いするんであれば、俺が白川だと証明――」

「できるから、お前が犯人だって言ってんだよ」

 ある種の開き直り。それに対して、九十九は間髪入れずに口を挟んでやった。まさか、白川が誰なのか分からないまま、ここまで推理を展開させたとでも思っていたのだろうか。
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