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第1問 理不尽な目覚め【解答編】

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「この事件には、まだ解明されていない謎がある。それは、渓谷の谷底で見つかった遺体に外傷がなかったこと。しかし、橋の上から突き落とされたわけではないみたいだし、かといって白川達には渓谷を降りる時間もなければ手段もなかった。これらを一気に解決してしまう方法が――ひとつだけある」

 決着をつけよう。この大掛かりな茶番に。九十九が続けて口を開こうとすると、そこに数藤が割って入る。この男に関しては、もう数の暴力の頭数に入っているのだから、特に発言してくれなくても良いのだが。

「ケーニヒスベルクの橋――という問題の別解がそれに近いだろうな」

 どうしてこの場面で、そんな面倒な問題を引き合いに出すのか。数学者としての見栄みたいなものでもあるのだろうか。引き合いに出すにしても、もう少し分かりやすいものが幾らでもあるだろうに。

「その、ケーニヒス……なんたらってのはなんだ?」

 案の定、長谷川が首を傾げる。それを見て、数藤は得意げに答えた。今は犯人を追求している場であって、数藤がウンチクを披露する場ではないのだが。

「ケーニヒスベルクの橋とは、中世後期から1945年まで東プロイセンの中心となった都市だ。現在のロシア連邦、カリーニングラードの辺りのことを指す。この都市にかかる7つの橋を、一度ずつ全て渡ることができるか――というのが、ケーニヒスベルクの橋だよ」

 そもそも、ケーニヒスベルクの問題そのものの説明を求めているわけではないだろう。そんな長谷川に、問題の内容を端的に説明したところで、彼の中での疑問符は増えるばかりだ。面倒なものを引き合いに出してくれたものである。仕方がないから、九十九は引き合いに出された問題を簡略化して説明することにした。

「もっと簡単に言うと――例えばAという土地とBという土地があって、その真ん中に――そうだな、今回の事件のような渓谷が流れているとする。その渓谷にかかっている橋が全部で7本ある。さてA地点をスタートとして、B地点と往復する形で橋を一度ずつ渡り、7本全ての橋を渡って再びA地点に戻ってこれるか――という問題だと思ってくれたらいい」

 この場ですべきことはクイズの解答だというのに、変な方向へと脱線せざるを得なくなった九十九達。先ほどまで鬱陶うっとうしいくらいだった藤木は、解答席でのやり取りを眺めながら沈黙を守っている。マイクを片手に、無表情のまま身動きひとつしない藤木は、まるで電池の切れてしまったロボットのようだった。
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