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第1問 理不尽な目覚め【解答編】

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「議論をストップしてくれって言ったのに、俺の知らないところで勝手に話が進められていたんだな――正直言って、失望したよ」

 この土壇場で、状況をひっくり返すチャンスを得たからなのか。先ほどまでえらく狼狽していた様子の司馬が、やや低めのトーンで言葉を放つ。

「なんとでも言えよ。最終的にどうにもならなくなって、トイレに行くフリして議論を中断させようとした奴に言われたくねぇな」

 これから、いざ意思統一をする――という場面になって、急に席を立った司馬。しかも、休憩時間が終わるまで戻ってこないという露骨な真似をしてくれた。きっと、議論をストップさせ、可能であれば意思統一ができないままに解答へと持ち込みたかったのであろうが、残念なことに犯人だと分かっている人間から「待っていてくれ」と言われて素直に待っている馬鹿はいない。もちろん、司馬が不在のまま意思の統一をさせてもらった。司馬だって、それくらい分かっていただろうに、追い詰められた人間はワラにもすがりたくなるということなのであろう。無駄な抵抗もいいところだ。

「だが、この事件には色々な謎が残っているはずだ。それを明確にもせず、結託して俺が犯人だ――と言われてもね」

 まだ勝負できる部分があると確信したのであろう。司馬はこちらに対して戦う姿勢を見せた。別に相手をしてやる必要はない――と思っていた九十九であるが、そこで口を開いたのは、司馬とよく言葉を交わしていたアカリだった。

「あの、私も納得いかないです。ただ、司馬さんが犯人だと言われて――その、言われた通りに解答は合わせましたけど、どうして司馬さんが犯人だということになるのか、しっかり説明して欲しいです」

 いちから全部を説明すると面倒だし、時間もかかると分かっていたから、あえて犯人の名前だけを共有する形をとったのであるが、しかしアカリは納得できていなかったようだ。もし……司馬がこの状況の主人公であったら、彼女はヒロインのポジションであったことだろう。残念ながら、彼は主人公でもなんでもなく、単なる殺人犯なのであるが。

「俺も納得できているかどうか――と問われたら、答えはノーだな」

「私も……事件に多くの謎が残ってるのに、ポンと犯人の名前だけを出されても」

「凛にも分かるように説明してって言ったのになぁ」

 長谷川と柚木、そして凛がそれに追随する。どうやら、お馬鹿さんにも分かるように説明してやらねばならないらしい。万が一にも、長谷川、アカリ、柚木、凛が答えを変えてしまったら、過半数の解答は難しくなる。これに司馬が加われば、誤答のほうが過半数を超えてしまうのだから――。九十九は大きく溜め息を漏らした。アカリ達が言及したことで、流れが司馬のほうへと傾きつつある。その流れを引き戻さねばならない。
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