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第1問 理不尽な目覚め【解答編】

第1問 理不尽な目覚め【解答編】1

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【1】

 人間とは、いざ追い詰められてしまうと、実に露骨な抵抗をする。それが不自然極まりないことであったとしても、何事もなかったかのごとく、平然とできるのは、きっと精神の大半をぶっ壊してしまうからなのであろう。残念ながら、無駄な抵抗は無駄な抵抗であり、こちらの足止めにすらならなかった。

 ――藤木の言葉を合図にして、一斉にフリップを出した瞬間、彼……九十九は真っ先に犯人の方へと視線をやった。色々と悪あがきをしてはくれたが、こちらのほうが一枚も二枚も上手うわてだったということだ。

 周囲の人間が出したフリップには、全く同じ答えが書かれている。ただ1人――犯人だけは、別の人間の名前を書いていた。それが自分の名前だったものだから、思わず笑みがこぼれてしまった。どうやら、大分嫌われてしまったらしい。

「えー、それではぁ、解答者の皆さんの答えを見て参りましょう」

 一度、カメラへとしっかり目線を向けると、そのまま解答席のほうへとやってくる藤木。犯人の狼狽ろうばいぶりというか――慌てた様子が滑稽で仕方がない。あの程度の妨害で、議論が中断するとでも思ったのであろうか。むしろ逆――あのタイミングで犯人が席を立ってくれたことで、滞りなく解答の段取りを組むことができた。おそらく、本人は時間を潰して戻り、議論を途中でストップさせたまま解答へと移行させるつもりだったのだろうが、そうは問屋が卸さない。

「まず、西潟眠夢さんの答えは――司馬龍平さん。続きまして桃山凛さんの答えも――司馬龍平さん」

 こちらはずっと熱視線を送っていたつもりだったのだが、ここでようやく本人様――九十九が犯人だと睨んだ司馬と目が合った。司馬は明らかに目を泳がせ、そして九十九から目をそらした。申しわけないが、彼がどんなことをやったのか全てお見通しだ。

「長谷川大さんの答えも司馬龍平さん。数藤学さんの答えもまた――司馬龍平さん。これで正解ならば、正解者が過半数を超えることになります」

 まだ解答の段階であって、出した答えが正解なのか否かは明らかにされていない。けれども、九十九は確信していた。再現映像と、このスタジオで見た彼の仕草を照らし合わせると、どう考えても彼が犯人であると。

「さぁ、上段の伊良部柚木さんの答えも――司馬龍平さん。木戸アカリさんもまた、答えは司馬龍平さん。おっと……ここで司馬龍平さんは九十九ヒロトさんが犯人だと解答。最後に、司馬さんから犯人扱いされてしまった九十九さんは、やはり司馬龍平さんが犯人であると解答。いやぁ、第1問から大きく動きました。もし、本当に司馬龍平さんが犯人ならば、満場一致で大正解。しかし、そうでなかった場合、解答者の方々は共倒れという図式。初っ端から面白くなって参りました」
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