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第1問 理不尽な目覚め【出題編】

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 休憩時間――それは名ばかりであり、事実上の議論が行えるタイミングだ。ここを逃してしまうと、いよいよ解答ということになる。すなわち、意思統合をしておくのであれば、このタイミングにしておかねば足踏みが揃わなくなる。足踏みが揃わなければ、過半数の正解者を出すことは不可能に近くなるだろう。

 柚木とアカリが解答席から離れたことを受けて、自然と辺りに休憩のムードが漂う。司馬は解答席から離れると、スタジオ出入り口に設置された小さなテーブルへと歩み寄った。藤木の話だと、飲み物やお菓子が用意されているはず。あらかじめ用意されていた食事に手をつけることはできなかったが、しかしお菓子ならば個包装であるし、飲み物も未開封のペットボトルが揃えられている。毒や変なものが混入している可能性は低いだろう。それに、やはり何も口にしないというのはよろしくない。ただ、それでも念のために他の誰かが来るのを待った。

 しばらくすると長谷川と数藤がやってきた。ふと解答席のほうへと視線をやると、いまだに動かずにいるのは九十九と凛、そして眠夢の3人。右手で解答用のマジックペンを回す九十九と、じっと前を見据えている凛はともかく、眠夢にいたっては解答席に突っ伏している。もしかして――寝てしまったのであろうか。

「ほら、あんたも飲むだろう?」

 解答席のほうへと目をやっているうちに、早速ペットボトルを開封したのであろう。右手にペットボトルを持った長谷川から声をかけられた。しかも、2リットルサイズのペットボトルをだ。一応、シェアできるように紙コップが一緒に用意されている。司馬が「あぁ、もちろん」と紙コップを差し出すと、長谷川は紙コップになみなみとお茶を注いでくれた。

 一方、数藤は500ミリリットルのペットボトルを手に取ると、左手でそれをおさえて右手でキャップを回そうとする。しかし、彼は本気でやっているように見えるのであるが、一向にキャップが開く気配がない。諦めたのか、司馬のほうへとペットボトルを差し出し「肉体労働というのはどうも得意じゃない。開けてくれたまえよ」と、九十九とはまた違った感じの上から目線を発揮する。

「人にものを頼むような態度には見えないんだが」

 紙コップを一度テーブルの上に置くと、文句を言いながらもペットボトルを受け取り、キャップを開けてから数藤へと返してやる。礼のひとつくらいあるだろうと思っていたのであるが、しかし数藤はペットボトルを受け取ると、無言で飲み物に口をつけた。九十九といい数藤といい、人の神経を逆なでる人種が妙に多い気がする。
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