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第1問 理不尽な目覚め【出題編】

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「それではまた、のちほど……」

 完全にスイッチが切り替わってはいなかったのか、藤木は滑稽なステップを踏みながらスタオジオの出入り口へと向かう。あまりにも淡々としていたからなのか、それとも唐突に休憩時間が訪れたからなのか、藤木をとっ捕まえて事情を聞くチャンスをすっかり逃していた。

「――待てっ!」

 誰よりも早く、しかし実質的に藤木からはワンテンポ遅れる形で長谷川が席を立つが、しかし藤木はスタジオから外へと出てしまう。重厚な鉄扉を閉じた音が辺りに響いた。それでも気にせず追いかけようとした長谷川を、九十九が「お前こそ待て――」と咎める。

「休憩時間中にスタジオから外に出ることは認められてねぇ。まだ分からねぇことも多いし、下手な目に遭いたくなきゃ、やめておいたほうが利口だぜ」

 藤木の後を追えなくなったこと……そして、藤木をとっ捕まえるチャンスを逃してしまったことを悔いたのか、長谷川がその場で「くそっ!」と漏らし、腹いせのごとく床を強く蹴った。藤木から事情を聞くチャンスだったのに、そのことに気づくのに時間がかかってしまった。これは、少しずつ現状を受け入れつつある証拠なのかもしれない。つまり、藤木を捕まえて現状を打破するという当たり前の手段ではなく、クイズに正解することで現状を打破しようとしているのだ。藤木側の思い通りになっているようで面白くない。

「妙にルールに従おうとするんだなぁ。あんたみたいなタイプ、真っ先にルールを破りそうなもんだが」

 面白くないついでに九十九に八つ当たりをする司馬。九十九は司馬の言葉を鼻で笑い飛ばしただけだった。何がどうというわけではないのだろうが、一言で言ってしまえば人間的に合わないのだ。元より水と油――互いに相容れない性質なのであろう。司馬のことを鼻で笑った九十九を、司馬はさらに鼻で笑い飛ばしてやる。

「あの、もう休憩時間に入ってるのよね?」

 ふと、周囲の様子を伺うかのごとく、高校教師である柚木が口を開いた。シンキングタイム中のBGMが鳴っていたら、間違いなく司馬の耳まで届かなかったような声量でだ。

「見る限り、まだカメラは回ってるみたいだけど、問題ないんじゃないかな」

 凛はカメラのほうを眺めながら、ぽつりと呟いた。さすがはプロというべきか、この距離から見て、カメラが動いているかどうか分かるらしい。それを聞いた柚木は解答席からいそいそと離れると、ヒールの音を立てながらトイレのほうへと姿を消した。それを見たからなのか、アカリも柚木に続く形でトイレへと向かう。いかなる時も人間の生理反応というものは機能し続ける。例え、こんな馬鹿げた状況に放り込まれても、トイレに行きたくなれば、腹も減るし喉も渇く。人間とは実に不便な生き物だ。
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