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第1問 理不尽な目覚め【出題編】

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 窓を開けた途端、生温い突風が部屋の中に吹き込んできた。それに驚いて目を閉じる小野寺。おそるおそると改めて目を開けてみると、出雲が言った通りの絶景が広がっていた。まず目の前に広がるのは真っ青な空。梅雨時期であるため空気はじっとりとしているようだが、空は青く、そして雲が少しかかっている。そして――はるか眼下には街並みらしきものが見えた。ここがどこなのかは分からないが、おそらく高層ビルの一室といったところなのであろう。

「ケンさん……ここってどこなんですか?」

 小野寺が問うと、出雲はソファーにどかりと座り込む。

「さぁな。人に聞く前に自分で調べてみろ。お前も新米の刑事ってわけじゃないんだから」

 出雲はいつもこうである。分かることは教えてくれれば良いというのに、あくまでも自分の力でやらせようとする。今の世は効率化が求められており、出雲のやり方はやや古臭い。まぁ、そんなことを口にしたらゲンコツのひとつでも飛んでくるだろうから、大人しく従うわけだが。

 小野寺くらいの世代になると、分からないことはとりあえずネットで調べるという習慣がついている。いつも通りにスマートフォンを取り出そうと、ジャケットの内ポケットへと手を伸ばしたが、しかしいつもスマートフォンを入れていたはずのポケットは空っぽだった。

「どういうわけだか携帯はなくなってるし、財布もなくなってる。挙げ句の果てに煙草までどっかにいったみたいだ。まぁ、お前も同じみたいだし、俺がボケたってわけじゃないらしいな」

 ソファーに座ったまま、右足でトントンとリズムを刻んでいるのは、おそらく煙草が吸えないストレスからくるものなのであろう。出雲とコンビを組んでいる小野寺は知っている。それがいずれ大きくなり、盛大なる貧乏ゆすりに変貌することを。

「――さすがにまだボケるって年齢には早いですしね」

 そう言いながら自分のポケットをまさぐってみると、スマートフォンはもちろんのこと、財布までなくなっていた。紙煙草派の出雲とは違い、小野寺は電子煙草をたしなむが、残念ながらキットそのものすっかり喪失してしまっていた。

「だが、もう孫がいてもおかしくはない年齢だ。それよりも小野寺、お前煙草持ってないか? この際、お前がいつも使ってるインチキ臭い機械で吸うやつでも構わん。どうにもニコチンが切れると頭が働かん」

 現状、わけの分からない状況に陥っているのに、しかし煙草が思考のトップに浮上してしまうのは、煙草吸いの悲しき性質だ。そんなことを言われたら、こちらまでニコチンを欲してしまうではないか。
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