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第1問 理不尽な目覚め【出題編】
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【2】
普段から寝覚めがあまり良いほうではなかった。低血圧なのかなんなのか分からないが、とにかく朝というものが苦手であり、季節を問わずに布団から出るのが億劫だった。きっと、散々引っ叩かれたのであろう。彼は両頬がヒリヒリとするのを感じつつ、ようやく上半身を起こした。
「全く――相変わらず呑気なやつだな。この状況で良くもまぁ、ぐっすりと寝られるもんだ」
上半身を起こした先には、見慣れた人物の顔があった。仕事上、いつも顔を合わせているベテランの刑事。親子ほどの年が離れた男は、彼と長年のコンビを組んでいる。
「ケンさん。あれ? ここって――」
まだ起きたばかりだし、元より朝が弱いこともあって、頭がうまい具合に回ってくれない。とりあえず辺りを見回してみるが、四畳一間の部屋の中にいるらしい。ただし、床も壁も天井もコンクリートがむき出しになっており、随分と部屋の中は殺風景だ。そこで、自分がソファーに寝ていたことに気づく。同じようなソファーがあるから、自分とケンさんの分なのであろう。状況が把握できていないためか、やや脱線した方向へと思考が向いてしまう。
「知らん。目が覚めたらお前と仲良くここにいたわけだ。昨日の記憶も妙に曖昧だし、どうやってここに来たのかも覚えていない」
徐々にクリアになってくる頭。コンクリートに包まれた部屋。たまたま彼の正面にふたつの扉があった。右手には窓があり、そこから光が差し込んでいる。ただ、どういうわけだか窓の内側には鉄格子が入っていた。
彼――こと小野寺心は、まだ寝ぼけた頭でソファーから降りる。自分の格好を確認すると、スーツ姿のままだった。あごひげをたくわえ、髪の毛には随分と白髪が混じり始めた彼のパートナー……出雲健永は、小さく溜め息を漏らすと窓のほうに目をやった。
「外を覗いてみろ。絶景が拝めるぞ――」
出雲に言われて鉄格子のはめられた窓へと歩み寄ってみる。ちなみに、出雲ことをケンさんと呼ぶのは小野寺だけである。刑事ドラマをきっかけに刑事を目指した小野寺のなかに、ベテラン刑事はあだ名で呼ばれなければならないというルールがある。そんな理由で、健永の健をとってケンさんと呼んでいる。本人には何度もやめろと言われた呼び方であるが、最近は慣れてきたのか、それとも呆れられてしまったのか、小野寺の呼び方にクレームが出ることはなかった。
普段から寝覚めがあまり良いほうではなかった。低血圧なのかなんなのか分からないが、とにかく朝というものが苦手であり、季節を問わずに布団から出るのが億劫だった。きっと、散々引っ叩かれたのであろう。彼は両頬がヒリヒリとするのを感じつつ、ようやく上半身を起こした。
「全く――相変わらず呑気なやつだな。この状況で良くもまぁ、ぐっすりと寝られるもんだ」
上半身を起こした先には、見慣れた人物の顔があった。仕事上、いつも顔を合わせているベテランの刑事。親子ほどの年が離れた男は、彼と長年のコンビを組んでいる。
「ケンさん。あれ? ここって――」
まだ起きたばかりだし、元より朝が弱いこともあって、頭がうまい具合に回ってくれない。とりあえず辺りを見回してみるが、四畳一間の部屋の中にいるらしい。ただし、床も壁も天井もコンクリートがむき出しになっており、随分と部屋の中は殺風景だ。そこで、自分がソファーに寝ていたことに気づく。同じようなソファーがあるから、自分とケンさんの分なのであろう。状況が把握できていないためか、やや脱線した方向へと思考が向いてしまう。
「知らん。目が覚めたらお前と仲良くここにいたわけだ。昨日の記憶も妙に曖昧だし、どうやってここに来たのかも覚えていない」
徐々にクリアになってくる頭。コンクリートに包まれた部屋。たまたま彼の正面にふたつの扉があった。右手には窓があり、そこから光が差し込んでいる。ただ、どういうわけだか窓の内側には鉄格子が入っていた。
彼――こと小野寺心は、まだ寝ぼけた頭でソファーから降りる。自分の格好を確認すると、スーツ姿のままだった。あごひげをたくわえ、髪の毛には随分と白髪が混じり始めた彼のパートナー……出雲健永は、小さく溜め息を漏らすと窓のほうに目をやった。
「外を覗いてみろ。絶景が拝めるぞ――」
出雲に言われて鉄格子のはめられた窓へと歩み寄ってみる。ちなみに、出雲ことをケンさんと呼ぶのは小野寺だけである。刑事ドラマをきっかけに刑事を目指した小野寺のなかに、ベテラン刑事はあだ名で呼ばれなければならないというルールがある。そんな理由で、健永の健をとってケンさんと呼んでいる。本人には何度もやめろと言われた呼び方であるが、最近は慣れてきたのか、それとも呆れられてしまったのか、小野寺の呼び方にクレームが出ることはなかった。
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