上 下
17 / 506
第1問 理不尽な目覚め【出題編】

15

しおりを挟む
 なんだかんだで収録の時間が迫ってきているらしい。まぁ、15分しかないのだから仕方のないことなのであろうが。

「俺達の置かれている環境自体が、まだ得体のしれないものなんだ。今のアナウンスの中にも出てきたが、降板ってなんだ? 卒業との違いは? なんでこんなことをしなきゃいけない? はっきり言って分からないことが多すぎるんだよ。気乗りはしないが、状況がある程度把握できるまでは、とりあえず指示に従っておいたほうが賢い」

 九十九はそう言うと、司馬のことを押しのけて楽屋から出てくる。そして、一同の顔を見回して鼻で笑うと、数藤と同じようにスタジオのほうへと歩き出す。ジーンズの両ポケットに手を突っ込みつつ、途中で振り返ると言い放った。

「まぁ、どうであれ俺はあんたらと馴れ合うつもりはない。あんまり関わるんじゃねぇぞ」

 その言葉と共に、九十九はスタジオの中へと姿を消してしまった。

「――なにあいつ。超、感じ悪いんだけど。頼まれなくても関わってやらねぇよ」

 少しずつ気が緩んでいるのか、ダークな面が前面に出つつある凛。司馬は彼女のファンでもなんでもないし、裏表がある人間だと分かっているから、別になんとも思わない。ただ、彼女に対して淡い幻想を抱いていたファンからすれば、きっとショックを受けるに違いない。アイドルなんてこんなものであり、文字通り偶像ということなのだろうが。

「あの、それでこれからどうしましょうか?」

 数藤、九十九の2人がスタジオへと向かったことで、自分達の方向性を確かめたくなったのであろう。柚木が口を開く。曲がりなりにも高校教師であり、その辺りはしっかりとしているように思えた。

 柚木の言葉に、みんなの視線が自然とスタジオのほうへと向けられる。司馬は率直な意見を述べた。

「さっきの彼が言ったように、状況が把握できていないというのが残念ながら現状だ。収録まで時間は残り少ないようだし、ここは大人しくスタジオ入りしたほうがいいのかもしれない」

 現状、出口が見つかるあてはないし、探す時間も残っていない。それでも収録に付き合ってやる義理などないのだが、どうしても司馬の中で降板の2文字が引っかかっていた。それがなんであるかは分からないが、なんとも不吉な印象があったのだ。

「そうしたほうが良さそうだな――。スタジオに行けば、なにか分かるかもしれないし」

 司馬の意見に長谷川が賛同の意を見せた時点で、一同の方向性は決まっていた。得体の知れない状況である以上、今は郷に入れば郷に従えの精神で動いたほうが賢明だろう。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

スローライフの鬼! エルフ嫁との開拓生活。あと骨

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:64

懴悔(さんげ)

歴史・時代 / 連載中 24h.ポイント:9,018pt お気に入り:10

正当な権利ですので。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:411pt お気に入り:1,097

主人公になれなかった僕は

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

視えるのに祓えない~九条尚久の心霊調査ファイル~

ホラー / 完結 24h.ポイント:3,748pt お気に入り:516

処理中です...