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第1問 理不尽な目覚め【出題編】
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ここでも動いたのは司馬とアカリだった。まだ誰も出てきてないであろう楽屋の扉にあたりをつけ、それぞれに扉へと向かう。彼女とは意思の疎通ができるというか、元より考え方が似ているのであろう。
まだ楽屋から出てきていないのは2人。司馬とアカリのように、たまたま楽屋が向かい合う形になっていた。司馬の目の前にある扉には【九十九ヒロト 様】と書かれている。一方、アカリの目の前にある扉には【西潟眠夢 様】と書かれていた。失礼であるが、どちらともインパクトのある名前だ。自然と譲り合う司馬とアカリ。まず先にアカリが扉をノックした。
――返事がない。一同と顔を見合わせたアカリが、もう一度扉をノックすると「ふぁーい」と、実に間抜けな声が返ってきた。あくび混じりの返事だったように思える。
しばらく待ってみるが、しかし返事があった以来、まるで動きがない。もう一度だけアカリが扉を開くと、ようやく扉が開き「ごめーん、寝てたぁ」と、目をこすりながら女性が姿を現した。その格好は紺のブレザー。スカートは今時風に短い。束ねてはいないが、ぱっと見た感じ、髪の長さはアカリと同じくらいか。それどころか、背格好が似ている。寝起きということかスッピンのようであるが、顔立ちが良いのかスッピンであるとということがまるで気にならない。制服から察するに女子高生というやつだろう。
「――ってかぁ、ここどこ? あなた達、誰?」
寝ぼけていたようだが、ようやく現実を把握し始めたのであろう。急に真顔になって、首を大きく傾げる眠夢。これまで楽屋から出てこなかったのは、単純に寝ていたからなのか。
「わ、私は木戸アカリ。残念だけど、ここがどこなのかは分からない」
徐々にではあるが、夢と現実の狭間から、現実のほうへと思考がシフトしたのであろう。はたと思いついたかのごとく体を触ると「え? 私のスマホはぁ? ってか、バッグもないんだけどぉ」と、わざわざ楽屋の中に引き返そうとする。それをアカリが手を引っ張って引き止めた。
「探しても多分ないと思う。そういった類のものは、ここにきた時点でみんな没収されたみたいだし――」
アカリが事情を説明すると、眠夢はぼんやりと宙を眺めつつ「そういえば、私なんでここにいるのぉ?」と誰に問うでもなく呟いた。
「まぁ、俺達もその辺りは同じ立場ってことだ。どうしてここにいるのかは分からないし、どうにも記憶が曖昧だ」
司馬が口を挟もうとすると、そのさらに脇から長谷川が口を出してきた。
「うーん、なんかよく分からないけど、その辺りは大人に任せるぅ。私、まだ未成年だしぃ」
改めて首を横に傾げた眠夢は、この状況をそのまま大人達に放り投げてきた。これが今時の主体性のない強さというべきか。
まだ楽屋から出てきていないのは2人。司馬とアカリのように、たまたま楽屋が向かい合う形になっていた。司馬の目の前にある扉には【九十九ヒロト 様】と書かれている。一方、アカリの目の前にある扉には【西潟眠夢 様】と書かれていた。失礼であるが、どちらともインパクトのある名前だ。自然と譲り合う司馬とアカリ。まず先にアカリが扉をノックした。
――返事がない。一同と顔を見合わせたアカリが、もう一度扉をノックすると「ふぁーい」と、実に間抜けな声が返ってきた。あくび混じりの返事だったように思える。
しばらく待ってみるが、しかし返事があった以来、まるで動きがない。もう一度だけアカリが扉を開くと、ようやく扉が開き「ごめーん、寝てたぁ」と、目をこすりながら女性が姿を現した。その格好は紺のブレザー。スカートは今時風に短い。束ねてはいないが、ぱっと見た感じ、髪の長さはアカリと同じくらいか。それどころか、背格好が似ている。寝起きということかスッピンのようであるが、顔立ちが良いのかスッピンであるとということがまるで気にならない。制服から察するに女子高生というやつだろう。
「――ってかぁ、ここどこ? あなた達、誰?」
寝ぼけていたようだが、ようやく現実を把握し始めたのであろう。急に真顔になって、首を大きく傾げる眠夢。これまで楽屋から出てこなかったのは、単純に寝ていたからなのか。
「わ、私は木戸アカリ。残念だけど、ここがどこなのかは分からない」
徐々にではあるが、夢と現実の狭間から、現実のほうへと思考がシフトしたのであろう。はたと思いついたかのごとく体を触ると「え? 私のスマホはぁ? ってか、バッグもないんだけどぉ」と、わざわざ楽屋の中に引き返そうとする。それをアカリが手を引っ張って引き止めた。
「探しても多分ないと思う。そういった類のものは、ここにきた時点でみんな没収されたみたいだし――」
アカリが事情を説明すると、眠夢はぼんやりと宙を眺めつつ「そういえば、私なんでここにいるのぉ?」と誰に問うでもなく呟いた。
「まぁ、俺達もその辺りは同じ立場ってことだ。どうしてここにいるのかは分からないし、どうにも記憶が曖昧だ」
司馬が口を挟もうとすると、そのさらに脇から長谷川が口を出してきた。
「うーん、なんかよく分からないけど、その辺りは大人に任せるぅ。私、まだ未成年だしぃ」
改めて首を横に傾げた眠夢は、この状況をそのまま大人達に放り投げてきた。これが今時の主体性のない強さというべきか。
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