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第1問 理不尽な目覚め【出題編】

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 ふと、その時のことである。もしかすると、扉に聞き耳を立てて、ずっと楽屋の外を探っていたのかもしれない。ガチャリとドアノブが回る音がすると、ちょっとした老紳士――といった具合の格好をした男が出てきた。

「ふん、それで現状がなんとかなるのであれば安いものだ。残念ながら、ここに集められた人間の情報量はほとんど同じである可能性が高い。事実、こうして私を含めてここに6人が集まっているわけだが、特別な事情を知っている者はいないのであろう。となると、まず残りの2人も特別な情報を持ち合わせてはおらず、せいぜい私達と同じような状況である可能性が高い。まぁ、烏合うごうの集がどれだけ群れたところで、烏合の集でしかないということだ」

 老紳士は白髪の混じった髪を伸ばし、それを後ろでひとつに束ねている。喋り口調は堅苦しく、やや賢いように思えるが、しかしどこか人を見下したような態度も見て取れる。年齢はおそらく50代くらいだろうか。その割には、まだ若いようにも見える。

「はぁ? 烏合の集とか意味分かんないだけど」

 噛み付いたのは凛だった。それに対して老紳士は鼻で笑う。

「これは失敬――。もしかして、烏合の集という言葉の意味から教えねばならないのかな? まぁ、ある意味素直で結構。そちらの方……お名前は? 記念に聞いておこう」

 そう言って嫌味たらしい表情を浮かべる老紳士。いいや、少なくとも格好はそうであったとしても、立ち振る舞いは紳士とは呼べないだろう。

「人に名前を聞く前に名乗る。これ、常識だと思うんだけど」

 老紳士に対して不快感をあらわにする凛。実際のところ、司馬から見た彼の第一印象は、かなり悪いものとなってしまっていた。何をしたらいいのか分からないなりに、なんとかひとつに纏めようとしていたというのに、それを烏合の集と呼んでみたり、自分はあとになって出てきたくせに、なんだか高圧的で人を馬鹿にしたような言動を見せる。挙げ句の果てに、完全に凛へと喧嘩を売るような態度。はっきりと言いたい。このような状況において、和を乱すような人間の名前こそ、ぜひ記念に聞いておきたいものだ。

「あっはっはっはっは! そのような奇天烈きてれつな格好をしている人間の口から、常識などという言葉が出てくるとはな。笑わせてくれたお礼に、ならば名乗ろう。私は数藤学すとうまなぶ。数学者をやっている」

 第一印象も悪かったし、なんだか偏屈っぽい雰囲気も出ていたしで、数学者というカミングアウトには全く驚かなかった。もちろん、研究職に携わる人間全てが偏屈というわけではないが、なんとなくそのような傾向の人間が多いような印象があるからだ。むろん、それは司馬の偏見にすぎないのだが。
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