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第1問 理不尽な目覚め【出題編】

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「あ、アイドラ乙女の桃山凛ももやまりんだ」

 決して部屋から出てこようとはせず、あくまでも顔だけを扉の隙間から出している様子の女性。彼女は、どこかで見たことのあるような奇抜な格好をしている女性のほうを見て、ただぽつりと呟いた。そんな彼女の楽屋の扉には【伊良部柚木いらぶゆずき 様】と書かれていた。

「あー、私のファン発見しましたぁぁぁぁ! この桃山凛ちゃんを知ってるなんて、お主なかなかお目が高い。ねぇ、握手しますぅ? 握手」

 おそらく、伊良部柚木という名前であろう女性のところへと向かうと、扉の向こう側に手を突っ込み、戸惑う柚木の手を引っ張り出す凛。両手で柚木の手を握ると、オーバーに握手をした。その動作の過程で、部屋を出ざるを得なかったのであろう。自然と柚木が部屋から引っ張り出される形になった。

「アイドラ乙女――って、確か男関係がスキャンダルされて脱退したメンバーがいたグループだよな」

 そのやり取りを見ていた大男がぽつりと呟く。なんとなく、彼が出てきた楽屋の扉のほうに視線をやると、みんなと同様に名前が書いてあった。彼の名前は【長谷川大はせがわまさる】らしい。親御さんがつけた名前の通り大きくなったようだ。まさか、親御さんも身長が2メートルに迫るまでの大男になるとは思わなかったであろうが。髪の毛も単髪であるし、いかにも体育会系といった印象だ。

「……凛、空気読まねぇ男とか、マジ無理なんだけど」

 露骨なまでのぶりっ子は、やはり本性ではないのだろう。それが分かっていても、長谷川の言葉を受けての変わりようには驚いた。凛は典型的な裏表のある人間なのだろう。

「あ、そうだ。私は木戸アカリって言います。えっと――」

 凛が態度を急変させたことで重たくなった空気を払拭するかのごとく、アカリが声を上げながら長谷川のほうへと視線をやった。まだ出会ったばかりであるが、アカリは周囲への気遣いができるタイプなのかもしれない。

「長谷川大だ。こんな図体をしてると、スポーツのひとつでもやっているのか――って聞かれるんだが、筋トレが趣味なだけで、仕事は公務員をやってる」

 長谷川はそう言ってアカリに握手を求める。アカリは「改めて、木戸アカリです」と握手を返すと、そのまま視線を柚木のほうへと流した。

「わ、私っ? 私は伊良部柚木っていいます。これでも、一応高校の教師です」

 言われてみると、グレーのジャケットにグレーのパンツスーツと、良く言えば小綺麗な――悪く言えば飾り気のない格好をしている。それでも、化粧はアカリよりやや濃いめに見えた。もちろん、それ以上にキャラクターの強い人物がいるため、アカリも柚木も地味に見えてしまうのだが。
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