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第1問 理不尽な目覚め【出題編】

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 わけの分からないクイズ番組。得体の知れないエンターテイメントに付き合ってやれるほど司馬は温厚ではなかった。そもそも、司馬自身が望んでこうなったわけではない。当たり前のように日常を過ごしていただけなのに、突然こんなことに巻き込まれてしまったのだ。だから、はいそうですかと素直に従うことなんてできなかった。

 司馬は時間の経過をひたすらに待った。外に続くであろう扉に鍵がかかっていることを確認し、用意されていた握り飯へと視線をやる。しかし、どうしても手をつける気にならなかった。でも、もしそれが煙草だったら――得体の知れない場所に用意されているものだったとしても、思わず手が伸びてしまっていたかもしれない。あぁ、煙草が吸いたい。渇望感のようなものが体を駆け巡っている。ただひたらすらに、司馬は耐えるしかなかった。ここから脱出したら、警察に駆け込むよりも先にコンビニに駆け込んでしまいそうだ。

 さまざまな方向へと思考を展開させるが、やはり根底部分には煙草への依存があったのであろう。随分と長い15分間のように思えた。またしてもチャイムが鳴り、例の作り物の声が響く。

『収録開始15分前ニナリマシタ。解答者ノ方々ハ収録開始マデニスタジオ入リシテクダサイ。繰リ返シマス……』

 放送が流れている最中に、扉のほうからガチャリと音がした。どういう仕組みになっているのかは分からないが、鍵が開いたようだ。司馬は扉まで向かうと、やや辺りを警戒しつつ扉を開いた。

 扉の外は1本の廊下が伸びているらしかった。廊下を挟んだ向かい側にも、自分の楽屋と同じような扉が見える。恐る恐ると扉から外に出てみた。

 真っ白い壁。真っ白い床。真っ白い天井。蛍光灯の電気に煌々と照らされた空間は、やはり1本の廊下だった。司馬の楽屋は廊下の奥に位置しているようだった。なぜ一番奥に位置しているのか分かったのかというと、廊下は司馬の楽屋を最後にどん詰まりとなっていたからだ。その空間には、廊下を挟んで左右に扉が綺麗に5つずつ並んでいる。どうやら、司馬が出てきたような楽屋が全部で10部屋あるらしい。そして、司馬が出てきた場所から見て奥のほう――どん詰まりの反対側となる廊下の先には【スタジオ】と白字で書かれた観音開きの大きな扉があった。

 ――構造的にはいたってシンプル。1本の廊下が伸びており、廊下の先にはスタジオに続く扉がある。廊下の反対側は行き止まりであり、廊下を挟んで左右に5つずつ扉があり、その先はきっと解答者の楽屋ということなのであろう。これだけ。たったこれだけ。楽屋もそうだったが、廊下にも窓はなかった。
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