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第1問 理不尽な目覚め【出題編】

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 薄っぺらい内容の台本には、しかし実に奇妙なルールが羅列していた。どうして自分がこんな目に遭うのだろうか。まるでクイズ番組のようなものを強要されるなんて。これはもう犯罪である。拉致監禁にくわえて強要だ。いいや、きっと罪状はもっと多岐に渡るのであろう。

 司馬がソファーの上に台本を放り投げた時のことだった。どこからともなくチャイムが鳴り響いた。鉄琴を叩いたよくあるチャイム。確かディナーチャイムなんて名称がつけられていたと思う。ただ、そのチャイムは全部で6音使っており、また途中で明らかに音を外していた。チャイムといえば【ピンポンパンポン】の4音を真っ先に連想しがちだが、それだと頭が勝手に認識したがゆえに、音の数が多かったり、音が外れていたりしているのが実に気持ち悪かった。それに続いて、まるで作られたかのような女性の声が響く。

『解答者ノ……ミナサン。ジキニ第1回目ノ収録ガ始マリマス。場合ニヨッテハ収録ニ時間ガカカル恐レガアリマスノデ、準備ハシッカリトシテオキマショウ』

 くぐもっており、なおかつ途切れ途切れに聞こえてくる機械的な声。これならば、スマートフォンに入っているAIアシスタントのほうがよっぽど流暢りゅうちょうに喋る。

『現在、収録30分前デス。収録15分前ヨリ、楽屋ノロックガ解除サレマスノデ、解答者ノ方々ハ収録開始時間までにスタジオ入リシテクダサイ。遅刻ハ厳禁トサセテ頂キマス。繰リ返シマス……』

 静まり返った楽屋らしき部屋の中に響く、明らかに作られた機械的な女性の声。楽屋の無機質さと声質の無機質さが相まって、なんとも不気味な後味だけを残してくれた。わざわざ2回も繰り返して案内してくれたわけだが、どうやらそろそろここから外に出ることができるらしい。

 素直にクイズ番組の真似事に乗っかるつもりはなかった。ただ、何が起きるか分からない以上、まるで乗っからないわけにもいかない。だから、まず楽屋から外に出たら、スタジオに向かうまでの時間を有効活用する。スタジオの位置だけ把握したら、まずは出口がないか探ってやろう。それでもし出口が見つかれば、もちろんそのまま脱出だ。クイズに正解すれば、とんでもない金額の賞金が手に入るようだが、本当に賞金が出る保証はない。なによりも、賞金が軽々と1千万も出るクイズ番組など、それこそ何か裏があるのではないかと思う。実際、クイズとして取り上げるものが物騒であるし、どうにも信用ならない。
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