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4.答え合わせ
4.答え合わせ 1
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【1】
音を立てて崩れた床。その後も押木が何度も日本刀を突き立て、そこには人の腕が通るくらいの穴が開いた。押木は日本刀を床の上へと放り投げると、その穴の中を覗き込む。
乱雑に積まれた資料の山と、見覚えのあるテーブル。そこでコーヒーを馳走になったのは、ほんの少し前のことである。
そしてテーブルの上には、押木が届けたものが置き去りにされていた。
「犯人は地下室の人間の中にいる……。ルールではそうなっていた。そして、俺達はここの構造とコンクリートで塗り固められた空間を見て、勝手にここが地下室だと思い込んでいたんだ。その証拠に、例のラジオパーソナリティーもどきは一言も、ここが地下だとは言っていない。具体的に俺達八人の中に犯人がいるとも言っていない。あくまでも犯人は地下室の人間の中にいるとしか言っていなかったはずだ」
押木はそう言うと穴から離れ、宮澤と亜由美に穴の中を覗くように促す。順番に穴の中を覗き込んだ宮澤と亜由美は、驚きを隠せないようだった。
「ここの下に部屋があるなんて……。つまり、ここは地下室ではなく地階だったと言うのか……」
宮澤は小さく首を横に振りながら、自らに言い聞かせるかのように、目の前に広がった景色に驚愕しているようだった。
「あぁ、そして下の部屋には見覚えがある。JSCビルの地下一階。恩田義照教授の研究室だ。なんで気づかなかったんだろう。他にも、ここが地下室ではないことを示唆する手掛かりはあったのに」
押木は脱力感を抱きながら、上へと続く階段のほうへと視線を投げた。ここで目覚めた直後に調べた階段の先にあった扉は、残念なことに溶接されていたはず。そこにも、実は示唆する手掛かりがあった。
「宮澤さん。俺達が外へと続く扉を調べた時、内側から溶接されていたのを覚えているか?」
そして、実は出口と思われる扉は、最初からここが地下室ではないと証明していたのだ。
「内側からだ。随分と不器用に溶接していたから覚えているよ」
「じゃあ、ゲームの運営者がここの出口の説明をする時、どちら側から溶接されているって言ってた? 俺の記憶が正しければ地下室の出口は【内側】からではなく【外側】から溶接されているって言っていたような気がするんだけど」
押木は覚えていた。直接会ったことはないが、幾度となく押木達の前に声として登場していた男の言葉を。
具体的には、ここにいる人間の紹介を行っていた時のこと。仲沢が溶接された扉から無理矢理外に出ようとした時のことだった。
――地下室から外に出る扉は外から溶接されている。
確かに、運営の男はそう言ったのだ。しかし、この空間の外へと続くであろう扉は【内側】から溶接されていた。これは、この空間が地下室ではないことを示唆するヒントのようなものだったのではないだろうか。
「つまり、ここが地下室ではないと言いたかったということか……。私としたことが、こんなことを見逃すなんて」
宮澤は落胆とも感嘆とも取れる声を漏らすと、今度は押木の推理を代弁するかのように小さく頷いて口を開く。
「……なるほど、だから君は北村君の遺体を調べ直したのか。私達のいた空間の地下には、もう一つの空間が存在した。その構造を利用すれば、犯人は返り血を浴びることなく北村君を殺害可能だ」
音を立てて崩れた床。その後も押木が何度も日本刀を突き立て、そこには人の腕が通るくらいの穴が開いた。押木は日本刀を床の上へと放り投げると、その穴の中を覗き込む。
乱雑に積まれた資料の山と、見覚えのあるテーブル。そこでコーヒーを馳走になったのは、ほんの少し前のことである。
そしてテーブルの上には、押木が届けたものが置き去りにされていた。
「犯人は地下室の人間の中にいる……。ルールではそうなっていた。そして、俺達はここの構造とコンクリートで塗り固められた空間を見て、勝手にここが地下室だと思い込んでいたんだ。その証拠に、例のラジオパーソナリティーもどきは一言も、ここが地下だとは言っていない。具体的に俺達八人の中に犯人がいるとも言っていない。あくまでも犯人は地下室の人間の中にいるとしか言っていなかったはずだ」
押木はそう言うと穴から離れ、宮澤と亜由美に穴の中を覗くように促す。順番に穴の中を覗き込んだ宮澤と亜由美は、驚きを隠せないようだった。
「ここの下に部屋があるなんて……。つまり、ここは地下室ではなく地階だったと言うのか……」
宮澤は小さく首を横に振りながら、自らに言い聞かせるかのように、目の前に広がった景色に驚愕しているようだった。
「あぁ、そして下の部屋には見覚えがある。JSCビルの地下一階。恩田義照教授の研究室だ。なんで気づかなかったんだろう。他にも、ここが地下室ではないことを示唆する手掛かりはあったのに」
押木は脱力感を抱きながら、上へと続く階段のほうへと視線を投げた。ここで目覚めた直後に調べた階段の先にあった扉は、残念なことに溶接されていたはず。そこにも、実は示唆する手掛かりがあった。
「宮澤さん。俺達が外へと続く扉を調べた時、内側から溶接されていたのを覚えているか?」
そして、実は出口と思われる扉は、最初からここが地下室ではないと証明していたのだ。
「内側からだ。随分と不器用に溶接していたから覚えているよ」
「じゃあ、ゲームの運営者がここの出口の説明をする時、どちら側から溶接されているって言ってた? 俺の記憶が正しければ地下室の出口は【内側】からではなく【外側】から溶接されているって言っていたような気がするんだけど」
押木は覚えていた。直接会ったことはないが、幾度となく押木達の前に声として登場していた男の言葉を。
具体的には、ここにいる人間の紹介を行っていた時のこと。仲沢が溶接された扉から無理矢理外に出ようとした時のことだった。
――地下室から外に出る扉は外から溶接されている。
確かに、運営の男はそう言ったのだ。しかし、この空間の外へと続くであろう扉は【内側】から溶接されていた。これは、この空間が地下室ではないことを示唆するヒントのようなものだったのではないだろうか。
「つまり、ここが地下室ではないと言いたかったということか……。私としたことが、こんなことを見逃すなんて」
宮澤は落胆とも感嘆とも取れる声を漏らすと、今度は押木の推理を代弁するかのように小さく頷いて口を開く。
「……なるほど、だから君は北村君の遺体を調べ直したのか。私達のいた空間の地下には、もう一つの空間が存在した。その構造を利用すれば、犯人は返り血を浴びることなく北村君を殺害可能だ」
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