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3.虚栄の信頼
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傷口に付着していた血を洗い流すと、タオルで水と血液が混じっていたものを拭きとり、押木は傷口を凝視する。そして、見つけた。日本刀が刺さったであろう傷口が、なぜかふたつ残されているのを……。
いや、押木の考えが正しければ、傷口はふたつあって当然なのである。もし、押木の推測通りの人物が犯人で、しかも自分達の置かれた境遇が根本的に違うものだとすれば、犯人が返り血を浴びなかった理由も説明できる。
「やっぱりそうだ……。俺達は大きな勘違いをしていた。これまでそれを疑うこともなかったし、下手をするとずっと疑わなかったかもしれない。でも、そうとしか考えられないんだ」
押木は由紀子から離れると、一目散にフロアのほうへと戻る。そして、フロアの隅に立てかけてあった日本刀を手に取った。押木に振り回されっ放しの宮澤と亜由美が、押木の姿に顔色を悪くしたのは言うまでもない。
「押木君、今度はなんのつもりだ? そんな物騒なものを手に取って……」
若干、宮澤が亜由美を庇うようにして立っていたのは、もしかすると押木が日本刀で凶行に及ぶかもしれないと考えたからなのかもしれなかった。
「ちょっとね……」
押木はそう答えると、すでに乾いた血だまりに歩み寄った。これは由紀子の体から出血したことによってできた血だまりだった。
押木は乾いた血だまりを手でなでると、おもむろに地面へと日本刀を突き立てた。
由紀子の遺体を貫いた日本刀は、そのまま勢い余って地面まで突き刺さっていた。そして、日本刀を宮澤が抜いた時、ほんのわずかだが空気がどこかから流れ出したような気がしたのだ。
「俺達の共通点は【しりとり】だった。間宮亜由美から始まり、押木準で終わる。そして、ヒントに基づくのであれば、負けてしまう人間――俺が鍵を握っていることになる。その時に気づいたんだよ。あのラジオMCみたいなやつが、あのことを一言も口にしていないことを……」
突き立てた日本刀を引き抜くと、再び日本刀を突き立てる。宮澤達がそれを見守るなか、何度も繰り返す。すると、床のコンクリートはボロボロと崩れて……下へと落ちて行った。
「つまり、俺達がいたのは、そもそも地下室じゃないんだ」
いや、押木の考えが正しければ、傷口はふたつあって当然なのである。もし、押木の推測通りの人物が犯人で、しかも自分達の置かれた境遇が根本的に違うものだとすれば、犯人が返り血を浴びなかった理由も説明できる。
「やっぱりそうだ……。俺達は大きな勘違いをしていた。これまでそれを疑うこともなかったし、下手をするとずっと疑わなかったかもしれない。でも、そうとしか考えられないんだ」
押木は由紀子から離れると、一目散にフロアのほうへと戻る。そして、フロアの隅に立てかけてあった日本刀を手に取った。押木に振り回されっ放しの宮澤と亜由美が、押木の姿に顔色を悪くしたのは言うまでもない。
「押木君、今度はなんのつもりだ? そんな物騒なものを手に取って……」
若干、宮澤が亜由美を庇うようにして立っていたのは、もしかすると押木が日本刀で凶行に及ぶかもしれないと考えたからなのかもしれなかった。
「ちょっとね……」
押木はそう答えると、すでに乾いた血だまりに歩み寄った。これは由紀子の体から出血したことによってできた血だまりだった。
押木は乾いた血だまりを手でなでると、おもむろに地面へと日本刀を突き立てた。
由紀子の遺体を貫いた日本刀は、そのまま勢い余って地面まで突き刺さっていた。そして、日本刀を宮澤が抜いた時、ほんのわずかだが空気がどこかから流れ出したような気がしたのだ。
「俺達の共通点は【しりとり】だった。間宮亜由美から始まり、押木準で終わる。そして、ヒントに基づくのであれば、負けてしまう人間――俺が鍵を握っていることになる。その時に気づいたんだよ。あのラジオMCみたいなやつが、あのことを一言も口にしていないことを……」
突き立てた日本刀を引き抜くと、再び日本刀を突き立てる。宮澤達がそれを見守るなか、何度も繰り返す。すると、床のコンクリートはボロボロと崩れて……下へと落ちて行った。
「つまり、俺達がいたのは、そもそも地下室じゃないんだ」
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