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3.虚栄の信頼
3.虚栄の信頼 1
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【1】
人間の体というものは、いかなる時でも素直な反応を見せるらしい。静かなコンクリートの檻の中に、腹の虫の鳴き声が小さく響いた。押木は思わず腹を抑えて照れ隠しに笑ってみたが、きっとはたから見れば笑えていないに違いない。
近藤が殺され、仲沢が殺され、由紀子も殺された上に杏奈が解答をしてしまった。立て続けに起きた様々な事件は、しかしここでピタリとなりを潜めてしまった。
あれからどれだけの時間が経過しただろうか。押木、宮澤、亜由美が残るフロアは相変らず静かで、時間が止まっているかのようにさえ思えた。
ヒントに対する議論、犯人を特定するための推論。亜由美と宮澤を交え、様々な意見を交換した押木だったが、それらしい答えが出ることはなかった。
駄目元で澪の部屋に向かって何度か呼びかけたが、やはり澪が心を開くことはなかった。時折、部屋の中から音はするし、死亡者として報告されていなから、生きてはいるのであろうが……。
押木の腹の虫に気を遣ってくれたのか。それとも、亜由美が押木のような状態になる前に手を打ったのか。宮澤が沈黙を破って押木と間宮の間に視線を往復させる。
食事にしよう。それに異議を唱える声など上がるわけもなく、そのまま自然と食事をする流れとなった。これが朝食なのか、それとも昼食なのか、はたまた夕食なのかは分からないが、この際、そんなことはどうでも良かった。
それぞれの部屋を回り、人数分の食事を調達する。
電子レンジで温めるだけのパックのご飯。それとレトルトカレー。ご飯を備え付けのレンジで暖めると、コンロでお湯を沸騰させた鍋の中にカレーのパウチを放り込む。
待つこと数分。温まったカレーをご飯にかけ、それを持ってフロアへと戻った。こんな時でもカレーの匂いが食欲を誘うから不思議である。
「それでは、頂くとしようか」
三人で輪になって、インスタントとインスタントを掛け合わせた食事へと向かう。小学校の給食であるかのように宮澤が発声して手を合わせると、力なく「いただきます」の輪唱が響く。
美味いかと言われれば、きっと首を横に振っていただろう。逆に不味いかと問われても、首を横に振っていただろう。どこにでもある普遍的な味で、むしろ貧乏学生である押木からすれば日常的に口にしているような食事。
まだ殺人が終わったとは限らないし、タイムリミットまでに答えを導き出せるかさえ分からない。
もしかすると、これが最後の晩餐になってしまうのではないか。そんなことを考えてしまうと、普遍的で大衆に受け入れられるように調整された味は、なんだか味気がないような気がしたのだった。
しかし、体は正直であり、三人はあっという間にカレーライスを平らげてしまった。亜由美でさえ言葉一つ発さずにスプーンを動かしていたのだから、自分達が思っている以上に、体はエネルギーを欲していたのかもしれない。
「さて、腹が膨れたところで、もう一度振り返ってみようか。何度も同じような話ばかりで申しわけないが、今の私達にできることはこれくらいしかない。ささいなことでも、見当違いのことでも構わないから、気になることがあったら言ってくれ」
人間の体というものは、いかなる時でも素直な反応を見せるらしい。静かなコンクリートの檻の中に、腹の虫の鳴き声が小さく響いた。押木は思わず腹を抑えて照れ隠しに笑ってみたが、きっとはたから見れば笑えていないに違いない。
近藤が殺され、仲沢が殺され、由紀子も殺された上に杏奈が解答をしてしまった。立て続けに起きた様々な事件は、しかしここでピタリとなりを潜めてしまった。
あれからどれだけの時間が経過しただろうか。押木、宮澤、亜由美が残るフロアは相変らず静かで、時間が止まっているかのようにさえ思えた。
ヒントに対する議論、犯人を特定するための推論。亜由美と宮澤を交え、様々な意見を交換した押木だったが、それらしい答えが出ることはなかった。
駄目元で澪の部屋に向かって何度か呼びかけたが、やはり澪が心を開くことはなかった。時折、部屋の中から音はするし、死亡者として報告されていなから、生きてはいるのであろうが……。
押木の腹の虫に気を遣ってくれたのか。それとも、亜由美が押木のような状態になる前に手を打ったのか。宮澤が沈黙を破って押木と間宮の間に視線を往復させる。
食事にしよう。それに異議を唱える声など上がるわけもなく、そのまま自然と食事をする流れとなった。これが朝食なのか、それとも昼食なのか、はたまた夕食なのかは分からないが、この際、そんなことはどうでも良かった。
それぞれの部屋を回り、人数分の食事を調達する。
電子レンジで温めるだけのパックのご飯。それとレトルトカレー。ご飯を備え付けのレンジで暖めると、コンロでお湯を沸騰させた鍋の中にカレーのパウチを放り込む。
待つこと数分。温まったカレーをご飯にかけ、それを持ってフロアへと戻った。こんな時でもカレーの匂いが食欲を誘うから不思議である。
「それでは、頂くとしようか」
三人で輪になって、インスタントとインスタントを掛け合わせた食事へと向かう。小学校の給食であるかのように宮澤が発声して手を合わせると、力なく「いただきます」の輪唱が響く。
美味いかと言われれば、きっと首を横に振っていただろう。逆に不味いかと問われても、首を横に振っていただろう。どこにでもある普遍的な味で、むしろ貧乏学生である押木からすれば日常的に口にしているような食事。
まだ殺人が終わったとは限らないし、タイムリミットまでに答えを導き出せるかさえ分からない。
もしかすると、これが最後の晩餐になってしまうのではないか。そんなことを考えてしまうと、普遍的で大衆に受け入れられるように調整された味は、なんだか味気がないような気がしたのだった。
しかし、体は正直であり、三人はあっという間にカレーライスを平らげてしまった。亜由美でさえ言葉一つ発さずにスプーンを動かしていたのだから、自分達が思っている以上に、体はエネルギーを欲していたのかもしれない。
「さて、腹が膨れたところで、もう一度振り返ってみようか。何度も同じような話ばかりで申しわけないが、今の私達にできることはこれくらいしかない。ささいなことでも、見当違いのことでも構わないから、気になることがあったら言ってくれ」
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