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2.最初の犠牲者

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 止める間もなく、そして声をかける間もなく、杏奈は解答室へと飛び込んでしまったのだった。

 解答する権利は一人につき一回。正解すれば解放される上に賞金まで出る。しかし、間違えれば死が待っている。押木達がどれだけ考えても答えにたどり着けないというのに、まさか杏奈は答えにたどり着いたとでもいうのだろうか。

「浦河君! 馬鹿な真似はやめるんだ! まだ犯人が分かったわけでもないのだろうっ!」

 宮澤が解答室へと駆け寄り、扉を勢いよく何度も叩いた。無理矢理ノブを回そうともするが、中からロックされているのノブが空回りするだけだ。

「私が犯人じゃないのは私が知っています! だったら犯人は四人の内の誰かです! 当てずっぽうで答えても4分の1当たりなんです!」

 扉の向こうから飛んできた言葉は、杏奈が半乱狂になって叫んでいる姿を連想させた。確かに、当てずっぽうでも犯人を当てる確率は低くはないだろう。しかし4分の1だ。それに命を賭けるというのは無謀以外のなんでもない。

「だが、4分の3という高確率でハズレなんだぞ! それなのに解答するなんて、命を投げ捨てるようなものだ! 悪いことは言わない。今すぐこっちに戻るんだ!」

「嫌なんです……。もう、こんなところに居たくありません!」

 杏奈に宮澤の説得など通用しない。半分泣いているかのような声が返ってくるだけで、説得に応じる様子はない。

 そして、宮澤が懸命に説得している最中、これまでとは違うジングルが流れた。デパートなどで迷子を呼び出す際に流れる木琴を叩いたような、日常という意味では馴染みの深いジングルだった。

『みなさまにお知らせします。浦河杏奈さんが解答しました。繰り返します。浦河杏奈さんが解答しました。なお、結果はみなさまにはお知らせできませんので、ご了承ください。浦河杏奈さんがどうなったのかは、お教えできませんのでご了承ください』

 また、件のDJ崩れが喋り出すかと思ったが、フロアに響いた声は球場のウグイス嬢のような、透き通った綺麗な声だった。

 いつしか、宮澤の説得に返す杏奈の声も聞こえなくなっていた。

 そして、また静寂。もう勘弁して欲しいと思ってしまう程の、痛い静寂。返事がなくとも真剣に扉の向こう側へと声を掛けていた宮澤がうなだれると、絶望という名の静寂が再び押し寄せた。

「……どうして、こうも簡単に命を投げ出すんだ」

 それは、押木達に問うてるようにも聞こえたし、すでに解答したであろう杏奈に向かって吐き捨てたようにも聞こえた。これで彼女が正答に辿り着けていればいいが、その確率は単純に4分の1。むろん、誤答をしてしまう確率のほうが断然に高い。

 これで残るは四人。押木、宮澤、亜由美、澪。澪を除く全員が行動を共にしている形になるが、果たして誰が犯人なのか。押木の勝手な希望であるが、ここは素直に澪が犯人であって欲しかった。

 これまで保たれていた信頼関係が、いつ崩れてしまってもおかしくはない。人数がちょうど半分に減ってしまった今、それは嫌でも現実味を帯びてしまう。そして、こうして別行動を取り続けてしまった結果として、今後も澪が行動を共にしたがるとは思えない。
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