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2.最初の犠牲者
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帰りたい。ただただ帰りたい。それが退屈で不満ばかりの日常でも構わない。押木の勝手な思い込みなのかもしれないが、きっとみんなだってここから逃げ出したいはずだ。いや、そう思わないほうがおかしい。もし、いるとするのならば、その人物こそが犯人なのだろう。
『それでは大切なヒントのコーナーです。いいですか? 一度しか言いませんから、よく聞いておいて下さいね』
そう前置きをして、声の主はもう一度大きな欠伸。この緊迫した状況とはまるで正反対の、全く緊張感のない声である。しかし、それでも最大の手掛かりとなるヒントとなれば、腹を立てて耳を傾けないというわけにもいかない。不快感を抱きつつ、悶々としながらも、聞き逃さぬように耳だけに神経を集中させた。
『ずばり【最初は間宮亜由美さん】です。以上、ヒントのコーナーでした。あ、あとね、簡単に死に過ぎ。このペースじゃ48時間もいらなかったかな。それと、犯人は人を殺し過ぎ。もう少しこっちの身になって動くように』
もはや、なかば投げやりであるかのようにヒントを告げると、プツリという乱暴な音を最後にフロアは静寂に包まれた。最終的には犯人にたいしても不満を持っているかのような言い草である。
「私が最初って……どういう意味なんだろう」
静まり返ったフロアでは、亜由美の震えた声がやけに通った。
これまでのヒントに続き、新たに提示されたヒントは【亜由美が最初】というものである。亜由美が不安そうな表情を浮かべるのも当然であろう。なにが最初だというのか分からないが、これまで抽象的で掴み所のないヒントに比べ、今回は具体的だ。
すなわち、亜由美のなにが最初なのかさえ明らかになれば、ヒントを読み解ける可能性が高い。名指しされてしまった本人は不安で仕方ないだろうが、これまでのヒントに比べれば考察できる幅は広いであろう。
「現時点では分からないが、悪い意味ではないと思う。殺される順番だったとしたら、すでに三人も死んでしまっているわけだし、推測の域を出ないが、そのような具体的な事象そのものを指しているようにも思えないからな」
亜由美の不安を和らげるかのように宮澤が言い、しかし亜由美は不安を拭えないようで、雨に打たれる子犬のような瞳で押木と宮澤を見上げる。
「でも、そうだとしたらなにを意味しているんだろう? これまでのヒントが抽象的すぎたから、今回のは具体的に思えるけど……。結局、それがなにを意味するのかはさっぱりだ」
亜由美が最初……。そのヒントが意味しているものとは、一体なんなのであろうか。
「そうだな。もしかすると他のヒントと併せて考えないといけないのかもしれない。そもそも、ひとつのヒントで謎が解けてしまうような真似はしないだろう。一見、全く関係がないように思えるヒントも、必ずどこかでひとつに繋がっているはずだ」
これまでに出たヒントは三つ。ひとつめは、ここに集められた人間に共通項があるというもの。ふたつめは、この中で負けてしまう人間が鍵を握っているというもの。そして、最新のヒントは、亜由美が最初であるというもの。
これらのヒントが、どのように結びつくのかは皆目見当もつかない。
『それでは大切なヒントのコーナーです。いいですか? 一度しか言いませんから、よく聞いておいて下さいね』
そう前置きをして、声の主はもう一度大きな欠伸。この緊迫した状況とはまるで正反対の、全く緊張感のない声である。しかし、それでも最大の手掛かりとなるヒントとなれば、腹を立てて耳を傾けないというわけにもいかない。不快感を抱きつつ、悶々としながらも、聞き逃さぬように耳だけに神経を集中させた。
『ずばり【最初は間宮亜由美さん】です。以上、ヒントのコーナーでした。あ、あとね、簡単に死に過ぎ。このペースじゃ48時間もいらなかったかな。それと、犯人は人を殺し過ぎ。もう少しこっちの身になって動くように』
もはや、なかば投げやりであるかのようにヒントを告げると、プツリという乱暴な音を最後にフロアは静寂に包まれた。最終的には犯人にたいしても不満を持っているかのような言い草である。
「私が最初って……どういう意味なんだろう」
静まり返ったフロアでは、亜由美の震えた声がやけに通った。
これまでのヒントに続き、新たに提示されたヒントは【亜由美が最初】というものである。亜由美が不安そうな表情を浮かべるのも当然であろう。なにが最初だというのか分からないが、これまで抽象的で掴み所のないヒントに比べ、今回は具体的だ。
すなわち、亜由美のなにが最初なのかさえ明らかになれば、ヒントを読み解ける可能性が高い。名指しされてしまった本人は不安で仕方ないだろうが、これまでのヒントに比べれば考察できる幅は広いであろう。
「現時点では分からないが、悪い意味ではないと思う。殺される順番だったとしたら、すでに三人も死んでしまっているわけだし、推測の域を出ないが、そのような具体的な事象そのものを指しているようにも思えないからな」
亜由美の不安を和らげるかのように宮澤が言い、しかし亜由美は不安を拭えないようで、雨に打たれる子犬のような瞳で押木と宮澤を見上げる。
「でも、そうだとしたらなにを意味しているんだろう? これまでのヒントが抽象的すぎたから、今回のは具体的に思えるけど……。結局、それがなにを意味するのかはさっぱりだ」
亜由美が最初……。そのヒントが意味しているものとは、一体なんなのであろうか。
「そうだな。もしかすると他のヒントと併せて考えないといけないのかもしれない。そもそも、ひとつのヒントで謎が解けてしまうような真似はしないだろう。一見、全く関係がないように思えるヒントも、必ずどこかでひとつに繋がっているはずだ」
これまでに出たヒントは三つ。ひとつめは、ここに集められた人間に共通項があるというもの。ふたつめは、この中で負けてしまう人間が鍵を握っているというもの。そして、最新のヒントは、亜由美が最初であるというもの。
これらのヒントが、どのように結びつくのかは皆目見当もつかない。
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