黄昏の暁は密室に戯れるか

鬼霧宗作

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2.最初の犠牲者

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 むろん、犯人が素直に自分の部屋でシャワーを浴びるとは考えられなかったし、返り血を防ぐためのものを隠したりするとも思えなかった。よって、仮に痕跡を見つけたとしても、それが直接犯人に結びつく訳ではなかった。

 しかし、押木達にとって重要なのは、その痕跡を見つけること自体にあった。

 次々と起きる殺人に、何かをする術もなく、ただ与えられたヒントから犯人を割り出すことしかできない押木達。宮澤の言葉に押木が頷き、一斉にフロアへと飛び出したのは、きっとそれに抗おうとする意志の表れだったのかもしれない。

 痕跡が犯人を特定する鍵になるわけではないだろうし、澪と杏奈が部屋に閉じこもってしまっているため、全ての部屋を調べられるわけでもない。

 それでも、シャワーを使用した痕跡や、何かを隠蔽した痕跡を見つけることで、押木は逃れようとしたのだ。この、最初からシナリオが決まっているかのような殺人劇から。ヒントを与えられるだけの不利な立場から。

 亜由美は戸惑いつつも押木について来た。宮澤と手分けをして各部屋を調べて回る。その中には当然ながら仲沢や近藤の眠る部屋も含まれていたが、死者との対面よりも痕跡を見つけ出すことのほうが優先されたおかげか、さほど気にならなかった。いや、もしかして死体というものに慣れてしまったのかもしれなかった。

 こうして、あらかたの部屋を調べ終えた押木達はフロアへと戻り、互いに状況を報告し合った。

「押木君、そっちはどうだった?」

 息を荒げながら問うてくる宮澤に、押木は首を横に振って答える。

「こっちは、それらしき痕跡は見つからなかった。そっちは?」

 押木が問い返すと、宮澤は押木と全く同じようなリアクションを見せる。

「いいや、こっちもそれらしいものは見つからなかった」

 どうやら、現段階で調べられる場所には、それらしい痕跡は残っていないようだった。もっとも、それは大方予想できていたことなのであるが。

「となると、やはり彼女達の部屋が怪しいということになるか……」

 調べられる場所は全て調べたつもりだが、犯人が返り血を処理したような痕跡は見つからなかった。ただ、部屋に引きこもってしまった澪と杏奈の部屋は調べられないでいた。可能性として痕跡が残っているとしたら、もはやそこしかないだろう。

 そこまで考えた押木だったが、もうひとつ見落としている場所があったことに気づくと、宮澤の言葉に付け加えるように呟く。

「いや、もうひとつだけ調べていない部屋がある……」

 押木はそう言って、その部屋の扉のほうへと視線を移した。宮澤もつられるようにして視線を動かすと、ため息と共に肩を竦めた。

「解答室……。確かに、可能性として無視はできないな」

 解答室は、解答をする際に入室する部屋であり、入室はすなわち、解答の意を示したものと見なされるだろうと考えられる。よって、うかつに入室するわけにも行かず、当然ながら犯人のわずかな痕跡……それも、見つけたところで犯人に直接結び付くわけではない痕跡のために、わざわざリスクを冒してまで解答室に入室するのは馬鹿らしい。
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