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2.最初の犠牲者

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 由紀子が殺害されたのは、押木と亜由美がフロアを離れたわずかな間。当然ながら犯人が返り血を浴びた直後に、着替えるなりシャワーを浴びなければならない。よって、犯人は返り血を浴びてすぐに現場から一度立ち去らなければならなかった。

 当然ながら、そんな短時間では浴びた返り血も乾かない。ならば、由紀子が殺害された周辺以外にも、犯人の衣服からしたたり落ちた血痕が残っているはずなのだ。宮澤が例えで出した【犯人が全裸の状態で由紀子を殺害した】というケースだって、シャワー浴びるために現場を離れなければならなかったはず。つまり、フロアに一滴も血痕が残っていないのは不自然なのだ。

「……言われてみればそうだな。確かに、少しばかりおかしいような気がする」

 早急に犯人を決め付けたい押木の推測に難色を示していた宮澤も、押木の指摘した部分には同意せざるを得なかったようだ。

「じゃあ、犯人は返り血を浴びないように、なにかしらかの細工をしていたのかな? 例えば、雨合羽みたいなものをはおるとか」

「いや、それで返り血を防げたとしても、結局はそれを処分しなければならない。ここはフロアと個人の部屋、そして解答室と上の階へと続くだろう階段しかない。フロアにそんなものを放置していれば嫌でも気がつくだろうし、個室のどこかに隠すなりして処分するのが妥当だろう。つまり、結局は返り血が付着した合羽類を持って、どこかの部屋に向かわねばならない。となれば、やはりフロアのどこかに血痕のひとつでも残っていたほうが自然だと言えるだろう」

 押木の気付きは、早急に犯人を決め付ける材料としてはほとんど役に立たない代わりに、説明しがたい謎を残してしまった。

 日本刀により殺害された由紀子。宮澤と杏奈が気づかなかったことから、寝込みを襲われたと考えられる。しかし、いくら寝込みを襲われたからといって由紀子の体の機能までが眠っていたわけではない。心臓は常に血液を送り続け、日本刀で突き刺せば当然ながら血液が吹き出す。しかも、日本刀を突き刺すには至近距離からでなければならないのだから、犯人が返り血を浴びずにやり過ごすことは不可能だと考えられる。

 フロアで返り血を浴びてしまった犯人が、仮に返り血を防ぐ方法を用いていても、フロアでそれを処理することができない。それが宮澤の言う通り全裸で及んだものだとしても、押木の推測通り雨合羽のようなものをはおっていたとしても、必ず返り血を処理するためにはフロアから離れねばならない。

 その際、どんなに注意を払っていても、血痕のひとつくらい残っているほうが自然だと言えよう。それなのにも関わらず、由紀子が倒れていた場所を除けば、フロアにはそのような痕跡が一切ない。

 たまたま犯人は返り血を浴びなかったのか、それとも返り血を浴びてもフロアに痕跡を残さずに済む方法でもあるのか。

 そこまで推測を突き詰めた押木達がやることは、ひとつしかなかった。

「押木君、犯人がどのようにして返り血の処理をしたのかは分からないが、もしかすると処理した痕跡がどこかに残されているかもしれない。雨合羽のようなもので返り血を防いだのであれば、その防いだものがどこかに隠されているだろうし、返り血を洗い流したのならばシャワーを使用した痕跡が残っているはずだ」
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