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2.最初の犠牲者
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それぞれをかばい合うような発言をする押木達に、宮澤は首を横に振る。
「二人とも、別に私は現状で起きたことを知りたいだけであって、責任の所在を追及しているわけではない。そこを履き違えないでくれ。それで、要約すると間宮君がトイレに行きたくなり、それに押木君が付き添った。そのため、フロアから離れなければならなくなった……そう言うことで間違いないかな?」
宮澤はフォローしてくれたものの、扉の隙間からこちらを睨みつける澪の視線が痛い。杏奈はおろおろと一同の顔を見回すばかりだった。もっとも、由紀子の遺体は見たくないのか、そちらの方ばかりは意識的に避けているように見えるが。
「離れた時間は十分もなかったはずだ。でも、戻ってきたら彼女が……」
押木も由紀子の無残な姿は直視するにたえず、意図的に目を逸らし続けていた。彼女が死にいたった責任を、どこかで感じているからなのかもしれなかった。
「押木君達がフロアを離れている間に、犯人が北村君を殺害したということか。浦河君、君は何かに気づかなかったか? どういう訳か、君も一緒になってフロアで休んでいたようだからな」
今度は杏奈の方へと視線を移す宮澤。本来ならば押木達と起きている予定であったのに、勝手に寝てしまったからだろうか。杏奈は後ろめたそうにしていた。
「その……私、間宮さんに起こされるまで夢の中でしたから。きっと、慣れない環境で疲れちゃったんですね」
さりげなく、勝手に寝てしまったことに対する言いわけを挟んでいるが、どうやら杏奈は由紀子が殺害されたことに気づかなかったらしい。
「そうか。情けないことに私も全く気がつかなかった。このフロアを犯人がうろついていたかもしれないというのに、これでは先が思いやられるな」
宮澤も由紀子が殺害されたことに気づかずに眠っていたようだった。
フロアは広いといえども、物音のひとつでも立てれば、嫌というほどに反響するだろうに……。宮澤、杏奈の両者が気づかなかったのは、少しおかしいような気がした。それとも、犯人がよほど静かに犯行に及んだのだろうか。あるいは、宮澤と杏奈は物音に気づけないほど深い眠りに落ちていたのか。
ここで押木は考える。由紀子の殺害が可能だった人物は誰なのかと……。
まず、亜由美に付き添って部屋の中にいた押木は、当然ながら由紀子を殺害していない。では、宮澤と杏奈はどうだったのか。答えは殺害可能であったと考えるしかなかった。
由紀子が殺害されたと考えられる時間帯、押木と亜由美、そして澪はフロアから離れた場所にいた。一方、宮澤と杏奈は由紀子と同じフロアにいた。宮澤と杏奈の二人に気づかれぬように、由紀子を殺害することは難しいかもしれないが、それが一人であるのならば成功率は飛躍的にアップするだろう。
杏奈が眠っている隙に、宮澤が由紀子を殺害した。宮澤が眠っている隙に杏奈が由紀子を殺害した。どちらのパターンでも、充分に可能であると考えられる。
ただ、他にも由紀子を殺害できたであろう人物は存在する。
澪が部屋から抜け出し、宮澤達を起こさぬように犯行に及んだ可能性も捨て切れない。そして、ユニットバスから天井裏に抜けてしまえば、押木が付き添ってやった亜由美にだって犯行は可能なのである。
「二人とも、別に私は現状で起きたことを知りたいだけであって、責任の所在を追及しているわけではない。そこを履き違えないでくれ。それで、要約すると間宮君がトイレに行きたくなり、それに押木君が付き添った。そのため、フロアから離れなければならなくなった……そう言うことで間違いないかな?」
宮澤はフォローしてくれたものの、扉の隙間からこちらを睨みつける澪の視線が痛い。杏奈はおろおろと一同の顔を見回すばかりだった。もっとも、由紀子の遺体は見たくないのか、そちらの方ばかりは意識的に避けているように見えるが。
「離れた時間は十分もなかったはずだ。でも、戻ってきたら彼女が……」
押木も由紀子の無残な姿は直視するにたえず、意図的に目を逸らし続けていた。彼女が死にいたった責任を、どこかで感じているからなのかもしれなかった。
「押木君達がフロアを離れている間に、犯人が北村君を殺害したということか。浦河君、君は何かに気づかなかったか? どういう訳か、君も一緒になってフロアで休んでいたようだからな」
今度は杏奈の方へと視線を移す宮澤。本来ならば押木達と起きている予定であったのに、勝手に寝てしまったからだろうか。杏奈は後ろめたそうにしていた。
「その……私、間宮さんに起こされるまで夢の中でしたから。きっと、慣れない環境で疲れちゃったんですね」
さりげなく、勝手に寝てしまったことに対する言いわけを挟んでいるが、どうやら杏奈は由紀子が殺害されたことに気づかなかったらしい。
「そうか。情けないことに私も全く気がつかなかった。このフロアを犯人がうろついていたかもしれないというのに、これでは先が思いやられるな」
宮澤も由紀子が殺害されたことに気づかずに眠っていたようだった。
フロアは広いといえども、物音のひとつでも立てれば、嫌というほどに反響するだろうに……。宮澤、杏奈の両者が気づかなかったのは、少しおかしいような気がした。それとも、犯人がよほど静かに犯行に及んだのだろうか。あるいは、宮澤と杏奈は物音に気づけないほど深い眠りに落ちていたのか。
ここで押木は考える。由紀子の殺害が可能だった人物は誰なのかと……。
まず、亜由美に付き添って部屋の中にいた押木は、当然ながら由紀子を殺害していない。では、宮澤と杏奈はどうだったのか。答えは殺害可能であったと考えるしかなかった。
由紀子が殺害されたと考えられる時間帯、押木と亜由美、そして澪はフロアから離れた場所にいた。一方、宮澤と杏奈は由紀子と同じフロアにいた。宮澤と杏奈の二人に気づかれぬように、由紀子を殺害することは難しいかもしれないが、それが一人であるのならば成功率は飛躍的にアップするだろう。
杏奈が眠っている隙に、宮澤が由紀子を殺害した。宮澤が眠っている隙に杏奈が由紀子を殺害した。どちらのパターンでも、充分に可能であると考えられる。
ただ、他にも由紀子を殺害できたであろう人物は存在する。
澪が部屋から抜け出し、宮澤達を起こさぬように犯行に及んだ可能性も捨て切れない。そして、ユニットバスから天井裏に抜けてしまえば、押木が付き添ってやった亜由美にだって犯行は可能なのである。
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